Carl Zeiss Distagon 25mm F2.8 修理教科書

Carl Zeiss Distagon 25mm F2.8

修理行程コンテンツを公開する主旨

ご自身で所有するレンズが、ある程度ご自宅にて自分でメンテナンスできれば、それが一番理想的ではないかと、日々人様のレンズに対峙しながら、長い期間感じておりました。

パソコン等のツールも行き渡り、全てのやり取りがWEB上で可能になりました。又、動画の収録・再生も個人レベルで可能な時代になりました。我々修理のプロも、その験・技術をオープンにして、皆様のお役に立てる方法を開示するべき時代が来たのだと思っております。

勿論、レンズの修理を従来通り専門業者に委ねる流れも、丁寧な処置前診断、価格の透明性、修理内容の開示等よりお客様が安心してレンズを委ねられる様な環境の改善は、引き続き行ってまいります。この教科書の配信を通じて、写真愛好家の方々の撮影ライフの一助となります事を願って止みません。

レンズの構造を理解して、整備の為の最低限必要な治具溶剤を揃えれば、充分に自宅でメンテナンスができる機種の一種ですので、このWebサイトのコンテンツを学習して頂き、ご所有レンズの状態維持にお役立て下さい。

Carl Zeiss Distagon 25mm F2.8というレンズ

Zeissのレンズには、AEタイプと、MMタイプと呼ばれる2種類があり、「G」はGermanyの略でWest Germany(当時は西ドイツ)、「J」はJapan、それぞれ製造国を表します。狭い路地や竹林撮影など、全体を収めたい時には、28mmより少し広いこの広角レンズがとても使い勝手が良い・・・と評判の機種になります。このレンズは、Zeissのレンズの中でも比較的初期に設計され、その後、MMシリーズにマイナーチェンジされたという経緯を持っています。開放では、周辺部の描写低下を少なからず感じますが、1段絞り込むと周辺の性能低下は幾分改善され、コントラストも上がってきます。F8付近が一番良い描写かもしれません。全体的な色調として、派手さはなく、むしろ地味な印象です。派手な色調も落ち着き、階調を豊かに表現してくれるレンズだと個人的には感じています。

第Ⅰ部

整備解説補足動画で全体像をつかんで下さい。

第一章ではフロント側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します

検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・フロント側から検査・分解しこの様な状態にします。
・前玉ユニットを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・その後、前玉ユニット×両面ガラス玉表面を洗浄します。
・前玉ユニット内部のレンズに関しては別途お問い合わせ下さい。
・今回解説する処置で殆どの光学的な課題は解決します。

フロント側から検査・分解しこの様な状態にします

前玉ユニット群レンズ
・このユニット内部には複数枚のレンズが組み込まれています。
・この機種の傾向としてこの内部に支障があるケースは稀です。
・この教材ではこの内部に関する解説までは至っていません。
・必要があれば別途お問い合わせ下さい。
・少し専門的な知識・経験が必要です。

前玉ユニット群レンズ

アクセス手順①
・先ず、フロント化粧リングを外します。
・レンズの名前が刻印されている部分です。
・この機種はリングというよりもカバー一体型の構造です。

フロント化粧リング

ゴム治具を使用します
・この様なゴム治具を使って下さい。
・ゴム治具径が化粧リングと同じだと回し易いです。
・加工の仕方、入手先は次に説明します。

ゴム治具を使用します

フロント側レンズ押え化粧リングを外す為のゴム治具①
・市販の物をこの様に加工します。
・中央をすり鉢状に削りレンズ面に触れないようにするのがポイントです。
・加工道具は彫刻刀が使いやすいと思います。
・単焦点50mmレンズ用としても一つあると重宝します。
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:100円前後
ユニデイー

フロント側レンズ押え化粧リングを外す為のゴム治具

フロント側レンズ押え化粧リングを外す為のゴム治具②
・出来ればこの様な専門治具があると重宝します。
・極小~巨大まで各種径が揃っています。
・すべて揃えるとかなり高額になります。
・必要に応じて少しずつ揃えていく事をお薦めします。
・価格目安:5,000円~10,000円位(SET商品です)
・ディスカバーフォト:DiscoverphotoDiscoverphoto

少し専門的なフロント側レンズ押え化粧リングを外す為のゴム治具

アクセス手順②
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・ゴム治具径≒化粧リングになっています。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。

この様にレンズ本体に当てがいます

アクセス手順③
・フロント化粧リングが外れました。
・段々、パーツが増えてきます。
・この段階から作業台上は整理整頓して下さい。

フロント化粧リングが外れました

アクセス手順④
・フロント化粧リングを外すとこの様な機構が現れます。
・前玉ユニットの頭部が見られます。
・次の作業はこの前玉ユニット機構を鏡胴本体から外す処置です。

前玉ユニットの頭部

アクセス手順⑤
・同じように専用ゴム治具を使います。
・先ほどの物と比べると少し径が小さい規格です。

専用ゴム治具

アクセス手順⑥
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・ゴム治具径≒前玉ユニットレンズになっています。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。

この様にレンズ本体に当てがいます

アクセス手順⑦
・前玉ユニット群レンズが外せました。
・この群レンズの後ろ玉は球面形状をしています。
・レンズ表面を傷つけない様に取扱いには注意して下さい。

前玉ユニット群レンズが外せました

鏡胴内部はこの様な構造になっています
・絞り羽根に直接アクセス可能な状態です。
・もしこの機構に課題がある場合はこのタイミングで処置します。
・お持ちの個体がこのケースの場合は別途お問い合わせ下さい。
・今回の教材ではこの課題には言及しておりません。

鏡胴内部はこの様な構造になっています

アクセス手順⑧
・取り出した前玉ユニット群レンズをクリーニングします。
・今回はこのユニットの後ろ玉表面のみを処置します。
・群レンズユニット内部に組み込まれているガラス玉に課題がある時は別途お問い合わせ下さい。

取り出した前玉ユニット群レンズをクリーニングします

現在の作業台上の風景
・現在はこの様な風景になっています。
・繰り返しになりますが順番と向きが重要です。
・整理整頓しながら作業して下さい。

現在の作業台上の風景

クリーニング専用ペーパー
・レンズの洗浄には専用ペーパーを使って下さい。
・推奨は【dusperΣ】です。
・チョット高価ですが是非【ダスパー】を購入して下さい。
・一枚一枚が大きいので四分の一にカットして使って下さい。
・同じくカメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:1,500円前後
ヨドバシカメラ

ダスパー

かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。

かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです

四分の一サイズがベストです
・もしかしたら小さいサイズの規格商品が市販されているかもしれません。
・ハサミでカットして下さい。
・1クリーニング=1枚を使用します。
・同じペーパーを何度も使い回ししない事。
・使用後のペーパーは鏡胴外観等の拭き取りに使います。

四分の一サイズがベストです

カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます
・上手く巻きつけができない時はセロテープを使ってださい。
・その際はなるべく根本にテープを巻きます。
・金属製のピンセットは使用禁止です。
・レンズを傷付ける恐れがあります。

カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます

ハンドラップの先端をプッシュします
・必要分が出てきます。
・高価なのでほんの少しで充分です。
・沢山使えば綺麗になるという訳ではありません。

ハンドラップの先端をプッシュします

ハンドラップとレンズ専用クリーニング溶剤
・当協会ではカビが除去しやすく、拭きムラが残り難い専用溶剤を使っています。
・一般の方はカメラ量販店等で扱っているレンズクリーニング溶剤で十分です。
・それでもかなり高価ですから、無駄なく使って下さい。
・沢山使用すればよいと言うものでもありません。
・カメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:3,000円前後(300ml)
ヨドバシカメラ
・保管容器のお勧めは【ハンドラップ】です。
・蒸発も防止できて必要分をプッシュして使えます。
・片手で必要量が出てくるのでとても重宝します。
・入手先:東急ハンズ等
・価格目安:2,000円前後(材質・サイズによります)
東急ハンズ

ハンドラップ

ユニット群レンズの後ろ玉表面をクリーニングします
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。

ユニット群レンズの後ろ玉表面をクリーニングします

ユニット群レンズの前玉表面をクリーニングします
・この工程は再組立て後でも構いません。
・レンズの状態を見極める為にこの段階でクリーニングします。

ユニット群レンズの前玉表面をクリーニングします

アクセス手順⑨
・これでフロント側からのアクセス・処置は終了です。
・この段階でレンズを一度組立て直します。
・連続してリヤ側処置に移るのは避けて下さい。
・区切りをつけて作業します。

この段階でレンズを一度組立て直します

組立て時の注意点
・一枚一枚のレンズの状態を再度確認して下さい。
・問題がなければ再組立て作業に進みます。
・空気中の埃が必ず付着していますのでブロアーで仕上げて下さい。
・この時、少し時間がかかりますのでレンズに空気中の埃が付着します。
・必ず組立る直前にその埃をブロアーで飛ばして下さい。
・お勧めのタイプは、独立起立型のブロアーです。
・少し割高になりますが、コロコロ転がるタイプのものは作業に集中できません。
・入手先:ヨドバシカメラ ヨドバシカメラ
・価格目安:2,500円前後(サイズによります)

独立起立型のブロアー

第二部

第二部ではリヤ側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します

検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・リヤ側から検査・分解しこの様な状態にします。
・後ろ玉群レンズユニットを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・その後、後玉群レンズユニット両面を処置します。
・後ろ玉ユニット内部のレンズに関しては別途お問い合わせ下さい。
・今回解説する処置で殆どの光学的な課題は解決します。

リヤ側から検査・分解しこの様な状態にします

リヤ側後ろ玉ユニット機構を外します
・この機構はリングとガラス玉が一体となっています。
・ゴム治具を使ってアクセスして下さい。

この機構はリングとガラス玉が一体となっています

アクセス手順①
・この様なゴム治具を使って下さい
・リング径と同じものが理想です
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:100円前後
ユニデイー

ゴム治具

ゴム治具
・第一章の物よりやや径が小さくなります。
・色々な個体を処置していくと自然と治具も増えていきます。

やや径が小さくなります

アクセス手順②
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・ゴム治具径≒化粧リングになっています。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。

レンズ本体に当てがいます

アクセス手順③
・これが後ろ玉レンズです。
・リング一体型形状です。
・このレンズの両面をクリーニングします。

後ろ玉レンズv

レンズ鏡胴内部
・後ろ玉を取り除いた鏡胴内部はこの様な構造です。
・直接絞り羽根ユニット機構にアクセスできます。
・もし、動作系に課題がある場合はこのタイミングで検査します。
・この教材ではこの点には言及していません。
・個別にお問い合わせ下さい。
・尚、絞り羽根向こう側のレンズ表面は第一章にて処置済です。

後ろ玉を取り除いた鏡胴内部はこの様な構造です

ご参考までに
・絞り時の状態です。
・今回は絞り羽根ユニット機構は触らないで下さい。
・動作の確認は可能です。

絞り時の状態

作業台の風景
・現在この様な風景になっています。
・後ろ玉の形状も表裏区別がつき易いです。
・整理整頓は心掛けて下さい。

作業台の風景

アクセス手順④
・後ろ玉表面をクリーニングします。
・治具、溶剤は第一章をご参照下さい。
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。

後ろ玉表面をクリーニング

アクセス手順⑤
・後ろ玉裏面をクリーニングします。
・治具、溶剤は第一章をご参照下さい。
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。

後ろ玉裏面をクリーニングします

お疲れ様でした
・これでリヤ側からのアクセス・処置が終了しました。
・再組立て作業に入ります。
・前述しました様にブロアーを使って下さい。
・クリーニング状態を確認して空気中の埃の付着を飛ばします。

これでリヤ側からのアクセス・処置が終了しました

最終確認
・フィルター、前後キャップ等付属品も確認します。
・折角綺麗に復元したレンズです。
・適切な保管をお願い致します。

ィルター、前後キャップ等付属品も確認

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本書は「Carl Zeiss Distagon 25mm F2.8」のレンズメンテナンスをご自宅で行うための教科書です。レンズの修理、カメラレンズのカビ、オーバーホール、分解、清掃等にお悩みの方はぜひお読みください!本書に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼があった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容は写真を見ながらじっくり再現すれば、あなたが所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。自分のレンズと同機種なのかをまずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化になっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。また、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。このままですと、いずれ世界中にある昔のレンズを修理できる人がいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行し、教育分野に取り組んでいます。その一環として、本書『カメラレンズ修理の教科書』をシリーズ化してまいります。本書では、プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、プロが行うのと同じ様な結果が得られる構成になっております。ぜひ本書をお読みになり、プロフェッショナルのレンズメンテナンスをマスターしてください。

著者プロフィール

田斉健輔(タサイ・ケンスケ)
一般社団法人日本レンズ協会 代表理事。光学研究所 所長。1960年、生まれ。祖父がライカカメラのレンズ職人だった為、幼少の頃からカメラレンズに慣れ親しむ。東京学芸大学を中退後、自衛隊に入隊。その後、大手外食企業の東日本統括部長に就任。2004年、カメラレンズのメンテナンス・修理の事業を興す。2011年、一般社団法人日本レンズ協会設立。今後、カメラレンズ修理の専門学校設立を構想している。ミッションは、日本の古き良きカメラレンズを、良い状態で後世に残していくこと。

kensuke tasai と申します。 光学機器の修理を主たる業務としております。 関連コンテンツも並行して配信させて頂いておりますので、リクエストございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。