Carl Zeiss Jena DDR Zenzanon MC 80mm F2.8 修理報告

DDR（デｲー・デｲー・エァル）という名称は、｢ドイチェ・デモクラティーシェ・レプブリーク｣の略で、ドイツ民主共和国＝旧東独のドイツ語略称になります。この機種の修理依頼は記憶をたどると数年前にまでさかのぼるので、機種としては珍しい部類に入るレンズなのかもしれません。Zenzanonという名称ですが、レンズ鏡胴の中身はBiometarの80mm F2.8と全く同じものです。外観形状は２種類あるようで、今回お預かりしたレンズ名刻印が外側の平らな部分にあるものと、少し奥側の斜めの部分にあるものに分類されます。どちらにしましても、構造的には大きな違いはありません。ビオメター（Biometar ）はドイツ民主共和国（東ドイツ）のカール・ツァイスが使用したレンズブランド。最初の製品はハリー・ツェルナー（Harry Zöllner ）により設計されました。Xenotarより先に設計されましたが、現在ではこのタイプはクセノター型と呼ぶれることが多いです。こんな歴主的背景を持ったレンズですが、定期的な整備を施せば今後もズーット写真撮影の良き友として活躍してくれると思います。写真でもわかる様に、この機種は一部の硝子素材に淡い色がコーテイングされています。私は写真家ではないので、この機種の独特な味わいみたいな事に関しては語れませんが、きっと素晴らしい描写ができるレンズなのではないかと思っています。

レンズ検査ご依頼までの流れ（経緯）

今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。

絞り羽根が途中で止まり元に戻りません。叩いたりゆすったりしても中々上手くいかないのでメールしました。レンズはZenzanon MC 80mm F2.8というレンズで、最近友人から譲ってもらいました。絞りが壊れている事は知っていましたが、どうせならちゃんと直して使っていきたいと思います。見てもらって他に何か不具合があれば一緒に直して下さい。できれば予算は2万円以下だと助かります。特に急ぎませんので宜しくお願い致します。

絞り羽ユニット機構の故障

レンズ鏡胴内部には駆動系部位として、フォーカス調整機構と絞り羽ユニット機構の二つが隣合わせで組み込まれています。フォーカス調整機構は関連螺旋状部にグリスが塗られています。一方、絞り羽ユニット機構は乾いた状態がベストです。この相反した状態を好む機構が隣合わせで組み込まれているので、今回お預かりした個体の様に、フォーカス調整機構から流れ落ちた油分を含む汚れが絞り羽ユニット機構に付着してしまう事があります。そうなると、最悪のケースですと絞り羽フイルム本体がユニットBOXに収納された状態で固着してしまいます。解放状態でしか撮影せきない症状になってしまいます。

機種名	Carl Zeiss Jena DDR Zenzanon MC 80mm F2.8
シリアルNO	9680087
付属品	前後キャップ
課題（所有者さん見解）	絞り羽根が途中で止まり元に戻りません。

修理報告

絞り羽ユニット機構に付着していた油分を含む汚れの除去処置施しました。動作は復元しています。関連部位に封着していた汚れは99％位は除去できていますが、今後残りの付着物が動きに合わせて浮き出てくる危惧は残ります。又、関連機構スプリングが使用頻度限界を超えていますので弱っています。又、お電話にてもお伝え致しましたが、リヤ側カメラ本体の接点部突起レバーと鏡胴内部絞り羽ユニット機構の動作伝達部位が限界使用回数を超えてしまっています。絞り羽調整ダイヤルからの動作は伝わっていますが、この部位からの動作は機能していません。この問題は遜色のない同規格部位交換を要しますが、同時に該当部位の入手が困難なのが実情です。この様な事が原因で再度動作が緩慢になってしまう可能性はあります。その際は再度こちらにお問い合せ下さい。できうる範囲になりますが再度整備させて頂きます。整備工程にていくつかのレンズ鏡胴内部写真をUPしておきますので併せてご参照下さい。

参考写真

この写真の様に、絞り羽フイルム形状が菊花型になっています。どの絞り値でも限りなく円形を醸し出す様に工夫されたフイルム形状ですが、接する面が広いので、固着しやすい一種の構造ともいえます。

納品に関しまして

※お願い・・・銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。確認後速やかに納品させて頂きます。

ご決済に関しまして

ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
（一社）日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔