Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 修理記録

Carl Zeiss Planar T* 100mm F2

Planarの中望遠レンズといえば85mm F1.4があまりに有名で、当協会の修理依頼件数から見ても、Carl Zeiss Planar T* 100mm F2というモデルは件数的には少ない部類の機種に属します。懇意にしている写真家の方に聞くと、人気という意味ではCarl Zeiss Planar 85mm F1.4の陰に隠れがちでありながら、実戦派の写真家から絶大な支持を得たのは、むしろこのPlanarの100mmだそうです。85mmよりピントの山が格段につかみ易く、ポートレートから風景撮影まで安定した写りを見せてくれる1本になるそうです。

Carl Zeiss Planar 85mm F1.4
Carl Zeiss Planar 85mm F1.4

Planarとは

Planarというレンズは、球面収差と非点収差を高度に補正し、無収差レンズ”と呼ばれていました。収差曲線が比較的平面であることから、ドイツ語のプラーン=平面より命名されたと言います。諸収差が増大しにくい為、大口径レンズによく用いられていました。

名称による分類

いい機会なので、Carl Zeissレンズの銘柄表示でよく見かける分類をしておきたいと思います。それぞれ専門用語にはリンクを貼っておきました。

出典: フリー百科事典=ウィキペディア(Wikipedia)

初代プラナーは、ダブルガウス型の発展過程における代表的なレンズのひとつで、完全に前後対称である。対称な設計は像面湾曲歪曲収差が抑えられ、平坦を意味するプラーン=独:Plan が名称の由来になっている。写真家の間では前後対称レンズと捉えている方が多い様です。

名称は構成レンズ数が4枚であることからギリシア語の4=Tetraから来ている。テッサーはウナーの前群とプロターの後群を合わせた3群4枚構成、とされているが、3群3枚凸凹凸のトリプレットを発展させ後玉を凹凸2枚の貼り合わせレンズとしたもの、とも見ることができる。

名称の由来はZeissの工場が郊外にあった都市ゾントホーフェン=Sonthofenから来るという説と太陽を意味するSonne=ゾンネ ドイツ語から来るという説の2つの説が知られています。後群のレンズが後方に伸びていることにより、一眼レフカメラにおいてはミラーに干渉するという問題が発生しました。

Distagon はドイツ連邦共和国=西ドイツのエルハルト・グラッツェルにより開発された逆望遠広角レンズに使われたレンズブランドになります。名称の由来ははディスタンス=距離とゴン=角度から来ています。広角にも関わらず収差を克服して明るさの限界に挑んだ画期的な製品で、世界のレンズ設計者を驚嘆させました。

ホロゴン=Hologon はCarl Zeissのエルハルト・グラッツェルによって発明された超広角レンズになります。名称はギリシア語のホロス(ὅλος、「全て、完全」の意)とゴニア(γωνία、「角度」の意)に由来します。厚い凹メニスカスレンズ2枚でひょうたん型の両凸レンズを挟んだ対称型の3群3枚構成になっています。

Carl Zeissの簡単な歴史

Carl Zeissの主なロゴ変遷
Carl Zeissの主なロゴ変遷

1989年にベルリンの壁が開放されたことによるドイツ再統一まで、東西ドイツのそれぞれにZeissが存在しました。その歴史の中では、東西どちらのZeissが本物であるか、長期にわたる商標争いも巻き起こっていたと言います。最終的には西ドイツのZeissがカールツアイス、東ドイツのZeissがCarl Zeiss Jenaを名乗ることで決着し、1991年に旧西ドイツのCarl Zeissがカールツァイス・イエナを傘下に収める形で統合され、現在に至っています。

レンズ修理ご依頼までの流れ(経緯)

今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。

ご依頼者様から頂いたメール

いつもお世話になっております。以前は、Carl Zeiss Planar 85mm F1.4の整備ありがとうございました。今回は、類似機種のCarl Zeiss Planar T* 100mm F2というモデルの修理をお願い致します。症状は、カビと絞り羽の緩慢な動きを改善できたらと思います。レンズを除くと明らかにカビが見られます。又、薄っすらとですが霞んでいます。絞り羽は動くのですが、動作が遅い様な気がしています。修理の範疇で復元できる範囲で結構ですので、宜しくお願い致します。

今回お預かり致しました機種

Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 付属品
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 付属品
機種名Carl Zeiss Planar T* 100mm F2
シリアルNO6229091
付属品リヤキャップ、フイルター
課題(所有者さん見解)絞り羽根の動きとカビ等光学系付着物
ご希望予算特になし

絞り羽ユニット機構

フォーカス調整機構螺旋状部グリスが、レンズ鏡胴内壁を伝わって絞り羽ユニット機構に流れ落ちてしまった為、絞り羽調整ダイヤルの動きよりも遅れて絞り羽フイルムが駆動する症状になっていました。

Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 開放時
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 開放時
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 絞り時
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 絞り時

汚れを含む油分を除去しましたので、その動きは復元しております。この様な症状になってしまう個体は、整備後時間の経過に伴って、再び似た様な症状になってしまう危惧を孕んでいますが、再度動きが緩慢になってしまった際は、無償にて整備致しますのでご安心下さい。

合成レンズ張り合わせ面にて白濁

この機種は、レンズ鏡胴内部に合成レンズが組み込まれているのですが、その張り合わせ面にて白濁現象が進行しています。これは、付着物ではないので除去できません。天然樹脂素材の流動性粘着物=カナダバルサム自体の劣化ですので、今後もゆっくりと、この症状は進行していくものと思われます。

Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 レンズユニット
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 レンズユニット
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 菌糸状カビと雲状カビ
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 菌糸状カビと白濁

除去前カビの付着一例

レンズ鏡胴内部に組み込まれている全ての硝子部位表面に付着していた埃・カビ除去しました。レンズ全体としての光学的なクリアー度はかなり復元しています。只、付着していた点カビと菌糸状カビが腐食カビで、除去後の腐食カビ痕が随所に残ります。

Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 無数の点カビ
Carl Zeiss Planar T* 100mm F2 除去前 無数の点カビ

光学機器は未使用期間が長期化する程随所に支障をきたしやすくなります。なるべく頻繁に使ってあげる様ご留意お願い致します。

納品に関しまして

※お願い・・・銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。確認後速やかに納品させて頂きます。

発送方法クロネコ発払い便
送り状NO別途メールにて報告
配送状況お荷物追跡システム

ご決済に関しまして

整備費20,000円(税込)
クロネコさん送料群馬県(一律)=930円(税込)
決済方法銀行振り込み
合計20,930円
お願いご決済後メールにてお知らせ下さい
お振込み先銀行

・みずほ銀行
・五香支店
・口座名義 一般社団法人 日本レンズ協会
・普通口座
・口座番号 1715154

山田 太郎の様にご記入下さい

ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔

kensuke tasai と申します。 光学機器の修理を主たる業務としております。 関連コンテンツも並行して配信させて頂いておりますので、リクエストございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。