Chiyoko S-Rokkor 50mm F2.8 C 修理教科書

Chiyoko S-Rokkor 50mm F2.8 C

レンズ修理工程コンテンツを公開する主旨

日本中のレンズのメンテを日々させて頂いておりますが、本当に困ってから修理依頼をなさる方々が多いのが実情です。レンズは撮影の為の道具の一種です。本来は、適切で定期的なメンテナンスが必要なのですが、何か問題が起きてから行動に移す方が沢山いらっしゃいます。

ご自身で所有するレンズが、ある程度ご自宅にて自分でメンテナンスできれば、それが一番理想的ではないかと、日々人様のレンズに対峙しながら、長い期間感じておりました。

パソコン等のツールも行き渡り、全てのやり取りがWEB上で可能になりました。又、動画の収録・再生も個人レベルで可能な時代になりました。我々修理のプロも、その経験・技術をオープンにして、皆様のお役に立てる方法を開示するべき時代が来たのだと思っております。

勿論、レンズの修理を従来通り専門業者に委ねる流れも、丁寧な処置前診断、価格の透明性、修理内容の開示等よりお客様が安心してレンズを委ねられる様な環境の改善は、引き続き行ってまいります。この教科書の配信を通じて、写真愛好家の方々の撮影ライフの一助となります事を願って止みません。

Chiyoko S-Rokkor 50mm F2.8 Cというレンズ

このレンズは、バルナックライカ型の1948年のミノルタ35の標準レンズであったスーパーロッコール 1:2.8 f=4.5cmの後継機種であり、1953年のミノルタ35-IIの標準レンズとして レンズ構成はそのままで焦点距離を45mmから50mmにして発売されたものと認識しています。まだ千代田光学時代のレンズなので 社名の愛称CHIYOKOが誇り高く書かれているのも特徴です。フォーカス調整機構螺旋状部グリスが、絞り羽ユニット機構に流れ落ちてくる傾向があるレンズを時々散見しますが、構造的にはご自宅で整備できる機種ですので、是非定期的にメンテナンスして下さい。

第Ⅰ部

第Ⅰ部ではフロント側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します。

検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・フロント側から検査・分解しこの様な状態にします。
・前玉ユニットを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・その後、前玉ユニット×両面ガラス玉表面を洗浄します。
・前玉ユニット内部のレンズに関しては別途お問い合わせ下さい。
・今回解説する処置で殆どの光学的な課題は解決します。

フロント側から検査・分解しこの様な状態にします

前玉ユニット群レンズ
・このユニット内部には複数枚のレンズが組み込まれています。
・この機種の傾向としてこの内部に支障があるケースは稀です。
・この教材ではこの内部に関する解説までは至っていません。
・必要があれば別途お問い合わせ下さい。
・少し専門的な知識・経験が必要です。

前玉ユニット群レンズ

アクセス手順①
・通常はフロント化粧リングを外すのですが、この機種は本当の意味で化粧リングです。
・レンズの名前が刻印されている部分です。
・この機種に関しましてはこのリングは外れません。
・このリングを外す必要は一切ありません。
・注意して下さい。
・その内側の前玉ユニット群を直接外します。

化粧リング

ゴム治具を使用します
・この様なゴム治具を使って下さい。
・ゴム治具径が前玉ユニット径と同じだと回し易いです。
・加工の仕方、入手先は次に説明します。

この様なゴム治具を使って下さい

フロント側前玉ユニットを外す為のゴム治具
・市販の物をこの様に加工します。
・中央をすり鉢状に削りレンズ面に触れないようにするのがポイントです。
・加工道具は彫刻刀が使いやすいと思います。
・単焦点50mmレンズ用としても一つあると重宝します。
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:100円前後
ユニデイー

市販の物をこの様に加工

アクセス手順②
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・ゴム治具径≒前玉ユニット径になっています。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。

この様にレンズ本体に当てがいます

アクセス手順③
・前玉ユニットが外れました。
・段々、パーツが増えてきます。
・この段階から作業台上は整理整頓して下さい。
・レンズ表面を傷つけない様に取扱いには注意して下さい。
・このアクセスで殆どの光学的な課題は解決します。
・これ以上は分解しなくても大丈夫です。
・もしこのユニットの内部に課題がある場合は個別にお問い合わせ下さい。

前玉ユニットが外れました

鏡胴内部はこの様な構造になっています(開放時)
・絞り羽根に直接アクセス可能な状態です。
・もしこの機構に課題がある場合はこのタイミングで処置します。
・お持ちの個体がこのケースの場合は別途お問い合わせ下さい。
・今回の教材ではこの課題には言及しておりません。

鏡胴内部はこの様な構造になっています(開放時)

アクセス手順④
・取り出した前玉ユニット群レンズをクリーニングします。
・今回はこのユニットの前後玉表面のみを処置します。
・群レンズユニット内部に組み込まれているガラス玉に課題がある時は別途お問い合わせ下さい。

取り出した前玉ユニット群レンズをクリーニング

現在の作業台上の風景
・現在はこの様な風景になっています。
・繰り返しになりますが順番と向きが重要です。
・整理整頓しながら作業して下さい。

現在の作業台上の風景

クリーニング専用ペーパー
・レンズの洗浄には専用ペーパーを使って下さい。
・推奨は【dusperΣ】です。
・チョット高価ですが是非【ダスパー】を購入して下さい。
・一枚一枚が大きいので四分の一にカットして使って下さい。
・同じくカメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:1,500円前後
ヨドバシカメラ

ダスパー

かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。

かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです

四分の一サイズがベストです
・もしかしたら小さいサイズの規格商品が市販されているかもしれません。
・ハサミでカットして下さい。
・1クリーニング=1枚を使用します。
・同じペーパーを何度も使い回ししない事。
・使用後のペーパーは鏡胴外観等の拭き取りに使います。

四分の一サイズがベストです

カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます
・上手く巻きつけができない時はセロテープを使ってださい。
・その際はなるべく根本にテープを巻きます。
・金属製のピンセットは使用禁止です。
・レンズを傷付ける恐れがあります。

カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます

ハンドラップの先端をプッシュします
・必要分が出てきます。
・高価なのでほんの少しで充分です。
・沢山使えば綺麗になるという訳ではありません。

ハンドラップの先端をプッシュします

ハンドラップとレンズ専用クリーニング溶剤
・当協会ではカビが除去しやすく、拭きムラが残り難い専用溶剤を使っています。
・一般の方はカメラ量販店等で扱っているレンズクリーニング溶剤で十分です。
・それでもかなり高価ですから、無駄なく使って下さい。
・沢山使用すればよいと言うものでもありません。
・カメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:3,000円前後(300ml)
ヨドバシカメラ
・保管容器のお勧めは【ハンドラップ】です。
・蒸発も防止できて必要分をプッシュして使えます。
・片手で必要量が出てくるのでとても重宝します。
・入手先:東急ハンズ等
・価格目安:2,000円前後(材質・サイズによります)
東急ハンズ

ハンドラップ

ユニット群レンズの前玉裏面をクリーニングします
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。

ユニット群レンズの前玉裏面をクリーニング

ユニット群レンズの前玉表側面をクリーニングします
・この工程は再組立て後でも構いませんが、レンズの状態を見極める為に
 この段階でクリーニングします。
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。

ユニット群レンズの前玉表側面をクリーニング

アクセス手順⑤
・これでフロント側からのアクセス・処置は終了です。
・この段階でレンズを一度組立て直します。
・連続してリヤ側処置に移るのは避けて下さい。
・区切りをつけて作業します。

ロント側からのアクセス・処置は終了

組立て時の注意点
・一枚一枚のレンズの状態を再度確認して下さい。
・問題がなければ再組立て作業に進みます。
・空気中の埃が必ず付着していますのでブロアーで仕上げて下さい。
・この時、少し時間がかかりますのでレンズに空気中の埃が付着します。
・必ず組立る直前にその埃をブロアーで飛ばして下さい。
・お勧めのタイプは、独立起立型のブロアーです。
・少し割高になりますが、コロコロ転がるタイプのものは作業に集中できません。
・入手先:ヨドバシカメラ
・価格目安:2,500円前後(サイズによります)

独立起立型のブロアー

第Ⅱ部

第Ⅱ部ではリヤ側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します

先ず初めに金属製のストッパー×2ケを外して下さい
・一つひとつ順番に外します。
・特に治具は使いません。
・指先で丁寧に外します。
・ネジ式ではないので手前に引っ張ります。

先ず初めに金属製のストッパー×2ケを外して下さい

検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・リヤ側から検査・分解しこの様な状態にします。
・後ろ玉群レンズユニットを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・そして、後玉群レンズユニットを洗浄します。
・この教材では群レンズユニット内部にはアクセスしません。
・内部に課題がある場合は個別にお問い合わせ下さい。

検査・分解のGOOLはこの様な状態です

リヤ側はこの様な構造になっています
・後ろ玉ユニットを外す工程になります。
・ゴム治具を使用します。

リヤ側はこの様な構造になっています

この様なゴム治具を使用します
・後ろ玉径と同じ規格の物を入手して下さい。
・固着している場合は個別にお問い合わせ下さい。

この様なゴム治具を使用

この様な形状をしています
・色々は個体を扱っていくと自然と治具も増えていきます。
・必要に応じて少しずつ揃えて下さい。
・価格目安:1,500円位(セット商品の場合)
・入手先:カメラ量販店等
・入手先:ヨドバシカメラ

この様な形状をしています

リヤ側からのアクセス手順①
・この様にゴム治具を当てがいます。
・径が同じほど回し易いです。
・反時計回りに押しつけ気味に回します。
・固着している場合は個別にお問い合わせ下さい。

この様にゴム治具を当てがいます

リヤ側からのアクセス手順②
・後ろ玉群レンズユニットが外れました。
・ユニット内部へのアクセスはこの教材では解説しません。
・内部に課題がある場合は個別にお問い合わせ下さい。
・この群レンズの表裏表面をクリーニングします。

後ろ玉群レンズユニットが外れました

参考までに①
・鏡胴内部はこの様な構造になっています。
・この段階で絞り羽根機構にアクセスできます。
・動作系に課題がある場合は個別にお問い合わせ下さい。
・開放状態です。

鏡胴内部はこの様な構造になっています

参考までに②
・絞り時状態です。
・絞り羽根向こう側のレンズは第一部で洗浄済です。
・繊細な機構ですので触れない様にして下さい。

絞り時状態

現在の作業台上の風景
・この様な風景になっています。
・今回は難易度は低い方ですが整理整頓が重要です。
・向きと順番に留意して下さい。

現在の作業台上の風景

リヤ側からのアクセス手順③
・いよいよ洗浄工程です。
・取り出したユニットレンズの表からクリーニングします。
・治具、溶剤は第一部をご参照下さい。
・洗浄方法も前述した要領です。
・専用ペーパーは新しい物を使って下さい。

取り出したユニットレンズの表からクリーニング

リヤ側からのアクセス手順④
・次に裏側面をクリーニングします。
・専用ペーパーは新しい物を使って下さい。
・レンズ中央から円を描く様に外周に向かいます。
・ササッとリズム良く処置して下さい。
・最初は拭きムラが残ります。
・慣れてくると上手になります。

次に裏側面をクリーニング

お疲れ様でした
・すべての処置が終了しました。
・再組立て作業に移ります。
・作業中に付着した空気中の埃はブロアーで飛ばします。
・丁寧に元の状態に戻します。

再組立て作業

付属品等確認します
・折角綺麗に復元したレンズです。
・付属品等ありましたら確認して下さい。
・今後の保管等十分ご留意して下さい。

付属品等確認

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初心者でも出来る!カメラレンズ修理の教科書Vol.012 Chiyoko S-Rokkor 50mm F2.8 C篇 Kindle版

自分のレンズは自分でメンテ!対象レンズ:Chiyoko S-Rokkor 50mm F2.8 C篇 Kindle版篇 Kindle版 本書は「Chiyoko S-Rokkor 50mm F2.8 C篇 Kindle版」のレンズメンテナンスをご自宅で行うための教科書です。レンズの修理、カメラレンズのカビ、オーバーホール、分解、清掃等にお悩みの方はぜひお読みください!本書に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼があった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容は写真を見ながらじっくり再現すれば、あなたが所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。自分のレンズと同機種なのかをまずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化になっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。また、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。このままですと、いずれ世界中にある昔のレンズを修理できる人がいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行し、教育分野に取り組んでいます。その一環として、本書『カメラレンズ修理の教科書』をシリーズ化してまいります。本書では、プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、プロが行うのと同じ様な結果が得られる構成になっております。ぜひ本書をお読みになり、ご自宅でできるレンズメンテナンスをマスターしてください。

 

著者プロフィール

田斉健輔(タサイ・ケンスケ)
一般社団法人日本レンズ協会代表理事。光学研究所所長。
1960年、生まれ。祖父がライカカメラのレンズ職人だった為、幼少の頃からカメラレンズに慣れ親しむ。東京学芸大学を中退後、自衛隊に入隊。その後、大手外食企業の東日本統括部長に就任。2004年、カメラレンズのメンテナンス・修理の事業を興す。2011年、一般社団法人日本レンズ協会設立。今後、カメラレンズ修理の専門学校設立を構想している。ミッションは、日本の古き良きカメラレンズを、良い状態で後世に残していくこと。

kensuke tasai と申します。 光学機器の修理を主たる業務としております。 関連コンテンツも並行して配信させて頂いておりますので、リクエストございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。