レンズ鏡胴内部に、ある程度の厚みがある硝子部位が組み込まれている機種の場合、その厚みのある断面から光が乱反射しない様にする為に、その断面に和墨汁を塗る加工技術があります。この黒く塗られた断面の事を光学の世界ではコバと呼んでいます=端っこという意味です。
これは、撮影用レンズに限らず、メガネや皮製財布、バッグ等でも修理の世界では使われている言葉です。どんな物でも、端っこは傷みやすいのです。滅多にない現象なのですが、乾燥して剥がれた和墨のかけらがレンズ鏡胴内部を浮遊する事があります。このコバ剥がれの破片がレンズ鏡胴内部の硝子部位表面に付着すると、目視的には黒色の付着物の様に目に映ります。
今回の修理依頼は、絞り羽が動かなくなったという症状なのですが、このコバ剥がれの破片が、絞り羽フイルム本体と関連駆動部位に挟まっていたのが、その主な原因でした。とても珍しい現象です。レンズの断面は通常撮影使用下では他の何かと擦れる事はないので、何故コバ剥がれの破片が鏡胴内部で浮遊・移動してしまったのかは謎です。
この様な破片を除去する事で、このレンズが抱えていた課題のひとつは解決する事が出来ました。そして、Ernst Leitz GmbH Summaron 3.5cm F3.5という機種は硝子玉の素材による影響なのか、点カビと雲状カビが付着しやすく、人間の目には白く濁った状態に目視される現象も、光学系付着物を除去する事で、課題は解決しました。
レンズ検査ご依頼までの流れ(経緯)
今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。
いつもお世話になります。いつもの癖で、前から気になっていたErnst Leitz GmbH Summaron 3.5cm F3.5というレンズを購入してしまいました。初めからわかっていたのですが、レンズ内部が白濁しています。そして、絞り羽が故障していて動きません。この様な症状は直るものでしょうか?大丈夫そうでしたらすぐにでも送付させて下さい。納期は急ぎません。費用は15,000円くらいでやって頂けるとありがたいです。
機種名 | Ernst Leitz GmbH Summaron 3.5cm F3.5 |
シリアルNO | 1436716 |
付属品 | リヤキャップ、フィルター |
課題(所有者さん見解) | 白濁・絞り羽ユニット機構故障 |
修理報告
先ず、絞り羽ユニット機構不良とのご見解ですが、この機構に問題は見られません。この個体に組み込まれているレンズのコバ剥がれが完全に進行していて、その剥がれた破片が絞り羽フィルム本体にからまっています。コバが剥がれてしまった硝子部位に関しましては、墨と硯と筆にて再塗り処置施しておきました。
この破片を除去しました。次に光学系付着物に関してですが、鏡胴内部全てのレンズ表面にカビ。埃が付着していました。カビの種類は主に点カビと雲状カビでした。この影響で、レンズ全体として白濁した個体になっていました。全て除去できていますが、付着していた点カビが腐食カビで、除去後の腐食痕跡が残ります。レンズ全体としての光学的なクリアー度は相当に復元しています。
今回の処置で、このレンズは当面撮影の友として充分に活躍してくれるものと思います。スクリューL39マウント形状のレンジファインダーフイルムカメラ初期の時代のレンズですので、レンズがカメラ本体から緩んでしまう事も考えられます。なので、不用意に落下等させない様に充分にご配慮頂き撮影をお楽しみ下さい。上記に掲げた写真以外も下記にUPしておきます。併せてご参照下さい。
納品に関しまして
※お願い・・・銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。確認後速やかに納品させて頂きます。
発送方法 | クロネコ着払い便 |
送り状NO | 別途メールにて報告 |
配送状況 | お荷物追跡システム |
ご決済に関しまして
整備費 | 15,000円(税込) |
決済方法 | 銀行振り込み |
お願い | ご決済後メールにてお知らせ下さい |
お振込み先銀行
・みずほ銀行
・五香支店
・口座名義 一般社団法人 日本レンズ協会
・普通口座
・口座番号 1715154
ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔