aus Jena Pancolar 50mm F1.8 修理記録

aus Jena Pancolar 50mm F1.8

aus Jena Pancolar 50mm F1.8(Carl Zeiss Jena)という機種は大きく三つのモデルバリエーションがあります。映りや外観にそれぞれ特徴がありますが、修理の分野では鏡胴内部の構造に大きな差はありません。

モデルバリエーション

初期型と前期型はどちらも距離環ローレットがゼブラ柄になっていますが、フイルター枠に違いがあるので、この点を参考にして、バリエーションを見分ける際の指標にして下さい。今回お預かりしましたレンズは、前期型になりますので、酸化トリウムが含まれたレンズは組み込まれていませんが、いい機会なので経年による「ブラウニング現象」から「黄変化」した個体について少し解説しておきたいと思います。

「黄変化」は「ブラウニング現象」の結果、光学系内の光学硝子レンズが経年で「赤褐色化」に変質してしまった状態を指します。光学硝子材に含有している「酸化トリウム」と硝子材成分との化学反応から、長期間使われないまま保管していた場合に (つまり入射光が光学系内に透過されない期間が長い場合に)生じてしまう現象です。

なので、使用頻度が高い個体はレンズ鏡胴内部に常時入射されてきた状態ですので、「赤褐色化」に変質してしまった状態を避けられます。実際にはこの様な個体の方が稀なのですが、酸化トリウムが含まれたレンズは組み込まれているレンズが全て赤褐色化しまう訳ではありません。

この様に、俗に言う「アトムレンズ (放射線レンズ)」に関してはその実態が不明のままネット上で色々と言われているのが実情です。最後に、何故当時「酸化トリウム」を光学硝子材に含有させていたのか?という疑問が残ると思いますが、答えは「屈折率の向上」に他ならず、最大で20%ほど改善できていたようです (後に代替材として使われたランタン材は最大値で10%代の改善に留まると言われています)。

すると「酸化トリウム」の含有で鋭いピント面を得たほうが良いのか、或いは「黄変化」を嫌うのか (放射線被曝が怖いのか) などの選択肢が分かれると思います。そして、「黄変化」で仮に光学系内が「赤褐色化」していた場合、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼ならばカメラボディ側の「オート・ホワイト・バランス (AWB)」設定である程度は改善が期待できます。

つまり、黄色っぽく写るのを抑えられる訳ですから、あまり赤褐色化を気にする必要性はないと個人的には感じています。

レンズ検査ご依頼までの流れ(経緯)

今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。

メールにてのお問い合わせ

aus Jena Pancolar 50mm f1.8 の絞り羽根の動きが渋く、カメラ屋さんに聞いたところ潤滑油切れによる固着とのことで、途中でひっかかったりして、スムーズに開閉できません。そこをメンテナンスしていただきたいです。もともと程度の良い同レンズが2万円前後で購入できることと送料もかかることを考えると、修理費用自体は1万円以内に納まってほしいと考えておりますが可能でしょうか?

修理が完了すればフォロワーもそこそこいるSNSで微力ではありますが宣伝くらいはさせていただこうかと思っております。大変、ご無理を言って申し訳ございませんが可能なようでしたら今後もご依頼させていただきたいとも思っております。お手数おかけしますがどうぞ、ご検討のほどよろしくお願いいたします。

aus Jena Pancolar 50mm F1.8 付属品
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 付属品
機種名aus Jena Pancolar 50mm F1.8
シリアルNO8908440
付属品前後キャップ、フイルター
課題(所有者さん見解)絞り羽根の動きが渋く、途中でひっかかったりして、
スムーズに開閉できません

aus Jena Pancolar 50mm F1.8の構造上の問題点

この機種に限った問題点ではないのですが、そもそもレンズ鏡胴内部には二つの駆動系部位が組み込まれています。フォーカス調整機構と絞り羽ユニット機構です。殆どの機種は、絞り羽調整ダイヤルで明るさ=露出をコントロールしますが、aus Jena Pancolar 50mm F1.8というレンズは、この調整ダイヤルの他に、カメラ接点ボタンと【Auto】⇔【Man】切り替えレバーという動作伝達部位を持っています。

絞り羽調整ダイヤルだけでも固着しやすい構造に加え、この二つの動作伝達部位の影響で構造がより複雑になってしまい、固着の原因がその分増えてしまう結果となってしまいます。製造元さんが良かれと考えたこの構造は、固着という現象を考えると疑問としか言いようがないと個人的には感じています。いずれに致しましても、フォーカス調整機構螺旋状部のグリスがこれら関連部位に付着してしまうと、殆どの場合で絞り羽が解放のまま固着してしまいます。

aus Jena Pancolar 50mm F1.8 切替スイッチ
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 切替スイッチ
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 カメラ接点ボタン
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 カメラ接点ボタン

修理報告

レンズ鏡胴内部フォーカス調整機構螺旋状部から流れ落ちてきた油分を含む汚れが付着している部位洗浄処置施しました。マニュアルモードでの動作は復元しています。文章及び写真ですとその復元状態がお伝え難いので、解説補足動画もご参照下さい。お電話にてもお伝え致しましたが、レンズ鏡胴内部に組み込まれている各種金属部位が相当に錆びています。

この錆も修理の範疇で落としましたが、いくつかの部位が痩せてしまっていて本来の形状を保っていません。その影響で絞り羽切替レバーをオートモードにすると解放値=1.8の指標でも完全に解放状態になりません。(マニュアルモード時は大丈夫な状態です)保管の向き等留意して頂き、未試用期間が長期化しなければ復元状態が維持できるものと診断しますが、一度この様な傾向になってしまった個体は再び同じ様な症状になってしまう危惧を孕んでおります事、ご了承お願い申し上げます。

その際はご連絡頂けましたら、ご自宅でできる簡易的な処置方法お伝えしますので、その旨お問い合わせ下さい。今回の整備にて気になる光学系付着物も除去しておきました。カビそのものは除去できていますが、除去後の腐蝕痕は随所に残ります。まだまだ撮影の道具として充分に活躍できるレンズです。今まで同様大切にご所有下さい。整備工程にていくつかの写真と、復元した絞り羽ユニット機構の動作確認解説補足動画UPしておきますので併せてご参照下さい。

参考写真

aus Jena Pancolar 50mm F1.8 順番に検査
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 順番に検査
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 レンズユニット
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 レンズユニット
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 解放時
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 解放時

この写真の様に、絞り羽ユニット関連部位が相当に錆びてしまっているので、その動きの完全な復元は難しいです。同時に遜色のない同規格部位の入手も困難です。

aus Jena Pancolar 50mm F1.8 絞り時
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 絞り時
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 全面を覆ったカビ
aus Jena Pancolar 50mm F1.8 全面を覆ったカビ

光学系付着物に関しましても、カビの付着が激しく、付着期間も長期化してしまっていますので、カビそのものは除去できても、除去後の腐蝕痕が随所に残ってしまいます。

aus Jena Pancolar 50mm F1.8 無数の点カビ

整備後復元状態解説補足動画

マニュアルモードでの動きは復元しています。

納品に関しまして

※お願い・・・銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。確認後速やかに納品させて頂きます。

発送方法クロネコ着払い便
送り状NO別途メールにて記載
配送状況お荷物追跡システム

ご決済に関しまして

整備費9,500円(税込)
決済方法銀行振り込み
お願いご決済後メールにてお知らせ下さい
お振込み先銀行

・みずほ銀行
・五香支店
・口座名義 一般社団法人 日本レンズ協会
・普通口座
・口座番号 1715154

山田 太郎の様にご記入下さい

ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔

kensuke tasai と申します。 光学機器の修理を主たる業務としております。 関連コンテンツも並行して配信させて頂いておりますので、リクエストございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。