レンズ修理に関する読者さんからのお問い合わせ
はじめまして。ホームページを拝見させて頂き、とても良心的な方と感じました。今回お尋ねしたいのはライカのズマリット50mm/f1.5の修理に関してです。内容は、
- レンズ後群に曇りがあります。まっすぐ覗くとあまり見えませんが、斜めから光に当てると曇りがあるのがわかります。
- 絞り羽根およびレンズに0.5~1㎜程のゴミが10個程あります。鏡胴内側の黒塗装の剥がれた破片だと思われます。
- 絞り環のクリック感がありません。絞り自体は規定通り動いています。(これは今日、私がやらかしてしまいました。絞り環の3個のねじのうち2個を緩めてしまい、再度締めたのですがクリック感が無くなってしまいました)
以上、曇り、ゴミの除去、クリック感修理でどのような感じになるかお返事いただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
順番にお答えさせて頂きます。
1、レンズ後群の曇り
レンズ鏡胴内部を光源に翳し(かざし)目視した際に目に映る光学系の不具合の状態にはいくつかの原因があります。硝子部位表面に付着している埃・カビ・昆虫の死骸・コバ剥がれ、この4点が主な原因の場合は、レンズ鏡胴内部への必要なアクセスが順調に進めば、その付着物除去処置にて課題が解決するケースはございます。
一方、その原因が、硝子部位自体の痛み・合成レンズ張り合わせ面にての天然樹脂素材流動性粘着物自体の劣化の進行・コーテイングの劣化、この3点が原因の場合は、原因が付着物ではないので、修理の範疇での課題解決は難しいです。遜色のない同規格部位交換を要しますが、該当部位の入手が困難なのが実情です。
光学機器の修理に身を置く人でしたら、レンズ鏡胴内部を検査用光源に翳して検査すれば、レンズ鏡胴内部にアクセスするまでもなく、その主な原因が何なのかをある程度は特定できます。よく、「レンズが曇っている」・・・という内容のお問い合わせを頂きますが、厳密には「曇り」という付着物はありません。
上記お話させて頂きました様に、付着物の正体が、埃・カビ・硝子部位自体の痛みの場合は、目視的には白濁している様に目に映ります。昆虫の死骸・コバ落ちの場合は、茶色か黒色に映ります。合成レンズ張り合わせ面にての天然樹脂素材流動性粘着物自体の劣化の進行・コーテイングの劣化の場合は、白濁か虹色の様に目に映る事が多いです。
この様な根拠から、もしもご所有のレンズが曇っている様に感じられるとの事ですので、恐らくその原因は、埃・カビ・硝子部位自体の痛み、若しくは合成レンズ張り合わせ面にての天然樹脂素材流動性粘着物自体の劣化の進行が考えられます。
2、鏡胴内側の黒塗装の剥がれた破片?
同様に、レンズ鏡胴内部を光源に翳し(かざし)目視した際に、黒色の異物が確認される場合は、その原因の殆どがコバ落ちによるケースです。ある一定以上の厚みのある硝子部位は、そのコバ=硝子部位の厚みの壁から光源が逃げない様に、和墨(わぼく)が塗られています。
この塗料は、とても上質な素材なのですが、時間の経過に伴い、乾燥すると硝子部位壁面から剥がれてしまう事があります。その破片が硝子部位表面に落下・付着すると、人間に目には黒色の異物として映ります。コバが剥がれた箇所から光が逃げていく現象は、実写に影響を及ぼします。硝子部位表面に落下したコバ剥がれは除去し、剥がれた箇所は和墨(わぼく)を塗り直す処置を施すのが一般的です。
3、絞り環のクリック感がありません
絞り羽調整ダイヤルには構造上幾つかの種類があるのですが、カチッ・カチッと音がするモデルは、クリック型絞り羽調整ダイヤルと呼ばれています。スプリング=小さなバネがベアリング=小さな鉄のボールを常に押し上げていて、そのベアリングがいくつかのプレート溝に移動しながらハマっていきます。その際に音がして、クリック感を感じます。
単焦点レンズの場合、通常使用環境下で、この駆動系に支障が出るのは稀ですが、この駆動伝達部位は不適切な処置を施すと、スプリングとベアリングとプレートの位相がずれてしまいます。この様な症状の状態の復元には相応の時間を要します。所有者様がご自身で、何だかの処置を施した個体に関しましては、理由・処置の具体的な内容等々、こちらでは明確には把握できませんので、お預かりする事は難しいです。
以上、簡単ではございますが、実際に該当個体を所見していない状態での、推測の域を出ないお答えになってしまいますが、情報収集の一環として宜しければご参照下さい。