レンズ修理工程コンテンツを公開する主旨
この教材に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼のあった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容を写真を見ながらじっくり再現すれば貴方が所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。
自分のレンズと同機種なのかを先ずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。レンズ鏡胴内部の普段は滅多に触れる事のないガラス玉や絞り羽根に直接アクセスできる様になります。手順通り行えば、貴方のレンズは今後も末永くクリアーな状態で、良き撮影ライフのパートナーになってくれると思います。
古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化なさっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。又、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。
このままですと世界中にある特に昔のレンズを修理できる人がいずれいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行して教育分野の一環として、このレンズ修理の教科書をシリーズ化し、電子書籍の体系としての出版も並行して、コンテンツの配信を実行する事を第二の事業の柱にする事に致しました。
Leitz Elmar 50mm F3.5というレンズ
Elmar 50mmと言えば、ライカ社オールドレンズの中でも突出して有名な機種になると思います。1924年にA型ライカに固定のレンズとして登場してから、細かな設計変更を重ねつつ長きにわたって生産が続けられ、現在も人気のあるライカを代表するレンズだと思います。修理の分野では、レンズそのものが小ぶりの為、当然ですがレンズ鏡胴内部に組み込まれている、各種部位もとても小さくて、整備工程そのものは、他機種と類似していますが、その部位の取扱いに細心の注意を払う必要があるので、ご自宅で整備する機種としては少し難しい部類に入ると思います。
第Ⅰ部
第一章ではフロント側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します。
検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・フロント側から検査・分解しこの様な状態にします。
・前玉シングルレンズを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・その後、前玉シングルレンズの両面ガラス玉表面を洗浄します。
・そして、絞り羽根向こう側の中玉表面をクリーニングします。
・今回解説する処置で殆どの光学的な課題は解決します。
前玉シングルレンズ
・この一枚のシングルレンズを洗浄します。
・とても小さいので丁寧に取り扱って下さい。
・表。裏の向きにも注意して下さい。
・作業台の整理整頓がポイントです。
アクセス手順①
・先ず、フロント化粧リングを外します。
・180°相対して細長い小さな切込みがあります。
・専用治具を自分で作る必要あります。
・固着している場合は別途お問い合わせ下さい。
専用治具を使います
・この様な金属治具を使って下さい。
・この教材では極力金属製の治具の使用は避けたいのですが、この機種は
この様な治具が必要となります。
・加工の仕方、入手先は次に説明します。
フロント側レンズ押えリングを外す為の専用治具
・市販の物をこの様に加工します。
・レンズ押さえリングの切込みの形状に合わせるのがポイントです。
・加工道具はヤスリが使いやすいと思います。
・先端の形状によって作業のし易さが左右されます。
・万力等も駆使して工夫してみて下さい。
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:1000円前後(この手の治具はピンキリです)
・ユニデイー
アクセス手順②
・この様にレンズ押さえリングの切込みに当てがいます。
・少し押しつけ気味に反時計方向に回します。
・この時にレンズ鏡胴本体を回す様にします。
・治具を回そうとすると上手くいきません。
・クッション性のある平らな作業台で行って下さい。
・焦らずに確実に処置して下さい。
アクセス手順③
・レンズ押さえリングが外れました。
・向きに注意して下さい。
・段々、パーツが増えてきます。
・この段階から作業台上は整理整頓して下さい。
アクセス手順④
・フロント化粧リングを外すとこの様な機構が現れます。
・前玉ユニットの頭部が見られます。
・次の作業はストッパーフィルムと前玉を鏡胴本体から外す処置です。
アクセス手順⑤
・コマンドタブを使います。
・粘着力の強い両面テープです。
・お近くのホームセンター等で入手可能です。
・価格目安≒500円位です。
・ユニデイー
アクセス手順⑥
・粘着面をこの様にレンズ本体中央に当てがいます。
・非常に細かい作業になります。
・レンズ表面中央に当てがうのがポイントです。
・固着している場合は個別にお問い合わせ下さい。
・無理は禁物です。
・シングルレンズとストッパーフィルムを同時に外します。
アクセス手順⑦
・シングルレンズとストッパーフィルムが外せました。
・このシングルレンズは球面形状をしています。
・レンズ表面を傷つけない様に取扱いには注意して下さい。
・向きに注意して下さい。
・作業台に置く順番も意識して下さい。
鏡胴内部はこの様な構造になっています(開放時)
・絞り羽根に直接アクセス可能な状態です。
・もしこの機構に課題がある場合はこのタイミングで処置します。
・お持ちの個体がこのケースの場合は別途お問い合わせ下さい。
・今回の教材ではこの課題には言及しておりません。
アクセス手順⑧
・取り出した前玉シングルレンズをクリーニングします。
・表、裏両面を処置します。
・その後絞り羽根向こう側の中玉表面も洗浄します。
現在の作業台上の風景
・現在はこの様な風景になっています。
・繰り返しになりますが順番と向きが重要です。
・整理整頓しながら作業して下さい。
・パーツが小さいので紛失にも注意が必要です。
クリーニング専用ペーパー
・レンズの洗浄には専用ペーパーを使って下さい。
・推奨は【dusperΣ】です。
・チョット高価ですが是非【ダスパー】を購入して下さい。
・一枚一枚が大きいので四分の一にカットして使って下さい。
・同じくカメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:1,500円前後
・ヨドバシカメラ
かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
四分の一サイズがベストです
・もしかしたら小さいサイズの規格商品が市販されているかもしれません。
・ハサミでカットして下さい。
・1クリーニング=1枚を使用します。
・同じペーパーを何度も使い回ししない事。
・使用後のペーパーは鏡胴外観等の拭き取りに使います。
カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます
・上手く巻きつけができない時はセロテープを使ってださい。
・その際はなるべく根本にテープを巻きます。
・金属製のピンセットは使用禁止です。
・レンズを傷付ける恐れがあります。
ハンドラップの先端をプッシュします
・必要分が出てきます。
・高価なのでほんの少しで充分です。
・沢山使えば綺麗になるという訳ではありません。
ハンドラップとレンズ専用クリーニング溶剤
・当協会ではカビが除去しやすく、拭きムラが残り難い専用溶剤を使っています。
・一般の方はカメラ量販店等で扱っているレンズクリーニング溶剤で十分です。
・それでもかなり高価ですから、無駄なく使って下さい。
・沢山使用すればよいと言うものでもありません。
・カメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:3,000円前後(300ml)
・ヨドバシカメラ
・保管容器のお勧めは【ハンドラップ】です。
・蒸発も防止できて必要分をプッシュして使えます。
・片手で必要量が出てくるのでとても重宝します。
・入手先:東急ハンズ等
・価格目安:2,000円前後(材質・サイズによります)
・東急ハンズ
前玉シングルレンズの表側、裏側面をクリーニングします
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。
中玉表側面をクリーニングします
・絞りを開放にして下さい。
・絞り羽根本体に触れない様に注意が必要です。
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。
アクセス手順⑨
・これでフロント側からのアクセス・処置は終了です。
・この段階でレンズを一度組立て直します。
・連続してリヤ側処置に移るのは避けて下さい。
・区切りをつけて作業します。
組立て時の注意点
・一枚一枚のレンズの状態を再度確認して下さい。
・問題がなければ再組立て作業に進みます。
・空気中の埃が必ず付着していますのでブロアーで仕上げて下さい。
・この時、少し時間がかかりますのでレンズに空気中の埃が付着します。
・必ず組立る直前にその埃をブロアーで飛ばして下さい。
・お勧めのタイプは、独立起立型のブロアーです。
・少し割高になりますが、コロコロ転がるタイプのものは作業に集中できません。
・入手先:ヨドバシカメラ
・価格目安:2,500円前後(サイズによります)
第Ⅱ部
第Ⅱ部ではリヤ側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します。
検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・リヤ側から検査・分解しこの様な状態にします。
・後ろ玉群レンズユニットを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・そして、後玉群レンズユニットを洗浄します。
・その次に中玉リヤ側表面も洗浄します。
・その為のアクセス手順になります。
リヤ側はこの様な構造になっています
・後ろ玉ユニットを外す工程になります。
・その為にはストッパーを外す必要があります。
・治具は使いません。
・指先で丁寧に外していきます。
この様なコマンドタブを使用します
・次に後ろ玉ユニットを外します。
・第一部で解説した物と同じものです。
・固着している場合は個別にお問い合わせ下さい。
・レンズ表面中央に当てがうのがポイントです。
この様な形状をしています
・粘着力が大変強いです。
・何度か使っていくとその粘着力が弱まります。
・Leitz用に常備しておくと良いと思います。
リヤ側からのアクセス手順①
・先ずストッパーを外します。
・指先で丁寧に外していきます。
・鏡胴本体を少しづつ回しながら処置します。
・固着している場合は個別にお問い合わせ下さい。
リヤ側からのアクセス手順②
・ストッパーが外れました。
・次に後ろ玉ユニットレンズを外します。
・このユニットはカップリング構造です(動画参照)
・この群レンズの表裏表面をクリーニングします。
参考までに①
・鏡胴内部はこの様な構造になっています。
・中玉を外すと絞り羽根機構にアクセスできます。
・この教材ではこの中玉は外しません。
・難易度が高く、その必要性もあまりありません。
・動作系に課題がある場合は個別にお問い合わせ下さい。
・開放状態です。
参考までに②
・絞り時状態です。
・直接アクセスはできませんが動作の確認は可能です。
・中玉が落ちてくるケースもあります。
・激しい振動は禁物です。
現在の作業台上の風景
・この様な風景になっています。
・今回は難易度が高い方ですので整理整頓が尚更重要です。
・向きと順番に留意して下さい。
・パーツが小さいので紛失にも気を付けて下さい。
リヤ側からのアクセス手順③
・いよいよ洗浄工程です。
・取り出した後ろ玉ユニットレンズの両面クをリーニングします。
・治具、溶剤は第一部をご参照下さい。
・洗浄方法も前述した要領です。
・専用ペーパーは新しい物を使って下さい。
リヤ側からのアクセス手順④
・次に中玉リヤ側表面をクリーニングします。
・専用ペーパーは新しい物を使って下さい。
・レンズ中央から円を描く様に外周に向かいます。
・ササッとリズム良く処置して下さい。
・最初は拭きムラが残ります。
・慣れてくると上手になります。
お疲れ様でした
・すべての処置が終了しました。
・再組立て作業に移ります。
・作業中に付着した空気中の埃はブロアーで飛ばします。
・丁寧に元の状態に戻します。
付属品等確認します
・折角綺麗に復元したレンズです。
・付属品等ありましたら確認して下さい。
・今後の保管等十分ご留意して下さい。
Amazon Kindle 電子書籍
初心者でも出来る!カメラレンズ修理の教科書Vol.013 Leitz Elmar 50mm F3.5篇 Kindle版
自分のレンズは自分でメンテ!対象レンズ:Leitz Elmar 50mm F3.5 本書はLeitz Elmar 50mm F3.5篇 Kindle版のレンズメンテナンスをご自宅で行うための教科書です。レンズの修理、カメラレンズのカビ、オーバーホール、分解、清掃等にお悩みの方はぜひお読みください!本書に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼があった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容は写真を見ながらじっくり再現すれば、あなたが所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。自分のレンズと同機種なのかをまずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化になっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。また、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。このままですと、いずれ世界中にある昔のレンズを修理できる人がいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行し、教育分野に取り組んでいます。その一環として、本書『カメラレンズ修理の教科書』をシリーズ化してまいります。本書では、プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、プロが行うのと同じ様な結果が得られる構成になっております。ぜひ本書をお読みになり、ご自宅でできるレンズメンテナンスをマスターしてください。
著者プロフィール
田斉健輔(タサイ・ケンスケ)
一般社団法人日本レンズ協会代表理事。光学研究所所長。
1960年、生まれ。祖父がライカカメラのレンズ職人だった為、幼少の頃からカメラレンズに慣れ親しむ。東京学芸大学を中退後、自衛隊に入隊。その後、大手外食企業の東日本統括部長に就任。2004年、カメラレンズのメンテナンス・修理の事業を興す。2011年、一般社団法人日本レンズ協会設立。今後、カメラレンズ修理の専門学校設立を構想している。ミッションは、日本の古き良きカメラレンズを、良い状態で後世に残していくこと。