カビの除去や、絞り羽の固着といった課題を解決する主旨のお問い合わせ以外に、該当レンズを自分で整備したいというメールを頂く事があります。技術的に難易度が高い機種でなければ、この様なご要望にもお答え致します。そして、ご依頼者さんの了解を得て、作成した整備方法コンテンツは今後も無料で閲覧できる様にしていきますので、是非ご所有のレンズは自分で整備できる様になって下さい。
2020年7月20日に頂きたお問い合わせメール
頂いたお問い合わせメール
初めまして。山口県の○○と申します。
所有しているレンズのPentax FA 50mm F1.4を自分で整備できる様になりたくてメールしました。レンズの内側にアクセスする方法を教えて下さい。
可能であれば、レンズを送付しますので、教えてもらえる場合の費用も知りたいです。
基本的な手順で構いませんので、ご指導お願い致します。
2020年7月21日に送信したお返事メール
お返事メール
○○様
お問い合わせありがとうございます。(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉健輔と申します。
ご所有のレンズを、ご自身で整備できる様になる事は、とても良いことだと思います。レンズは撮影の為の大切な道具ですので、定期的な整備を要します。
レンズ鏡胴内部にアクセスする為の基本的な手順を解説します。
費用に関しましては、10,000円(税別)かかりますが、如何でしょうか?又、同じ機種をご所有の写真愛好家の方々の為に、コンテンツを無料で開示させて頂きますが、この点もご了承して頂けますでしょうか?
2020年7月22日に頂いたメール
頂いたメール
お返事りがとうございます。料金も納得しましたので、是非お願い致します。
できましたら、写真と文章で解説お願い致します。
又、整備の仕方のサイトでの公開も構いません。
宜しくお願い致します。
2020年7月24日に送信したお返事メール
お返事メール
承知致しました。
それでは、○○様のご都合の宜しい時に、該当レンズこちらまでご送付下さい。
到着致しましたら、その旨メールにて報告致します。
納期に関しましては、概ね10日間程お時間を頂きます。
納品と並行して、整備手順をWebサイトにUPして、そのサイトURLをメールにてお知らせ致します。
この機種の修理難易度・・・★★★★★(比較的簡単)
ネジ組込み式レンズ押えリングの木ネジ3本を外す
それでは、先ず前玉から見ていきましょう。この機種の場合、前玉最前方レンズはねじ込み式レンズ押さえリングにて固定されています。他の機種と一部違う点は、そのレンズ押さえリングを反時計周りに回す為には、銅鏡最先端のカバーを先ず外さないといけません。そのカバーは5mm程度の長さの木ネジ3本で固定されています。フォーカス調整ダイヤルを至近距離目盛に回すと、木ネジの頭が姿を現します。精密プラスドライバーを使用します。このカバーの役割は外観・デザイン的要素が強いので、3箇所のネジの位置はそれ程重要ではありませんが、念の為にマーキングしておきます。今回ご紹介するレンズの分解清掃にあたって、私がドライバーを使用するのはこの3本の木ネジを外す時のみです。ドライバー、その他金属でできたツールは極力使いません。殆ど全てをゴム素材ツールで賄います。市販物では、その径がピタッと合いませんので、各レンズ毎にその都度手作りしていきます。若しくは、少し値段は高いですが、専門治具を購入します。
銅鏡最先端保護カバーを外します
3本の木ネジと銅鏡最先端カバーが外れました。3本のネジは総て同じ種類です。紛失防止のため組立終わるまで、ねじケースに保管します。銅鏡カバーは天地の向きがありますから、忘れないようにメモしておきます。この際に重要なのは、ねじもリングも外したその時に磨き上げておくという事です。全体像を分解しながら把握し、レンズ以外の金属パーツは綺麗に磨きあげておきます。そうする事で、レンズのふきあげの際に、余計な汚れが付き難くなります。
取り外した木ねじを一時的に保管するケース
この様なケースに、取り外した木ネジ3本は、一時的に保管しておきます。100円ショップで購入できますので、細かなパーツを取り外した時にあると便利な道具になります。レンズの機種によっては、この木ネジよりももっと小さなイモねじが組み込まれている機種がありますので、只単に作業台の上に置いておくと、床に落ちて見つけるのが不可能になってしまうのを防ぎます。
レンズユニットを取り外します
合成レンズの向きを変えた写真
いよいよ最初のレンズユニットが姿を現しました。チョット感動する瞬間です。通常、ねじ込み式のレンズ押さえリングによって固定されているレンズユニットは、更にねじ込み方式で固定されていることはありません。この最初のレンズユニットはSETされているだけですから、傾きを変えればすんなり外れます。この様な組み込まれ方をドロッピング(カップリング)機構と呼びます。向きが大切なので勿論慎重に外します。このレンズユニット部は1群2枚構成といって、SETになっている最小単位ユニットレンズです。この2枚が更に分解できると、丁寧な磨き上げが可能なのですが、完全に2枚が固定されている場合もあります。ここに曇り、カビ等の原因がある場合は、このユニットレンズの交換が必要になります。
絞り羽ユニット機構
写真に写っている様に、この機種の場合はこれで絞りバネの前玉側が現れます。もし、絞り羽ユニット機構系に異常がある場合は、このタイミングでその原因を究明します。絞り羽根もいろんな種類があって、枚数も絞った時の形もそれぞれ特徴がありますが、動きを滑らかにしてあげる必要がある個体は、この機構をクリーニングします。
絞り羽の状態
今回依頼されたレンズは、絞り羽ユニット機構には問題がありませんでしたので、この駆動系機構の整備手順は割愛しましたが、この一連の手順で、対物側からのアクセスは終わりになります。取り出したレンズユニットをクリーニングして、元の状態に組込み直します。ガラス玉のクリーニング溶剤はHCL Lens クリーナーを使って下さい。ネットで購入できます。
冶具溶剤
②ブロアー・・・写真の様な自立タイプの物が便利です。
③竹(木製トング)・・・お近くのホームセンターで探してみて下さい。
④ダスパー
⑤ゴム治具
リヤ側からのアクセス
チョット解り難いですが、リヤ側にもレンズユニットが組み込まれています。その合成レンズを取り出す工程を解説します。
リヤ側レンズユニットを取り外します
この機種のリヤ側ユニットレンズは3枚1群構成になっています。最初のレンズを取り出しました。今まで幾度か注意喚起してきましたが、やはり付箋を付けて、天地の向きに気を付けて下さい。 本当にくどいようですが、作業を進めていくうちに、時々混乱してしまうケースがプロでも起こります。身辺を常に整理整頓して、深い呼吸を意識して、1レンズ毎に集中する姿勢が一番大切えす。ユニットレンズの中にはあと2枚レンズが残っています。
更に分解します
取り出したレンズ一枚一枚を丁寧にクリーニングしていきます。ガラス玉が小さいので、表と裏の向きに気を付けながら作業します。慣れないうちは、ガラス玉に付箋を付けて向きを間違わない様に工夫して下さい。
リヤ側から見た絞り羽
ご依頼のあったレンズは、絞り羽ユニット機構に問題はなかったので、この機構の修理手順は割愛しますが、この部位に支障がある場合は、処置を施す事になります。以上で、Pentax FA 50mm F1.4というレンズは、ご自宅で整備できると思いますので、最低限必要な治具溶剤を揃えて、実際にやってみて下さい。その工程で、何か質問がありましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。
一般社団法人 日本レンズ協会の主な業務は、全国の写真愛好家の方々のレンズを修理する事ですが、ご自身で整備したいという要望にもお答えしております。Zoomを活用したリモート講義も配信しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。今後も、技術サポート体制を整備していきますので、ご意見等頂けますと参考になりますので、お願い申し上げます。