今回整備したレンズは、1936年から発売が開始された、Canon バルナック型レンジファインダー式フォーカルプレーンシャッターフイルムカメラ用の交換標準レンズとして製造販売されたモデルの一種になります。仲間のモデルは、他に二つありますが、同じ銀鏡胴タイプのレンズは、銘柄表記版にSerenaと刻印されています。もう一つのタイプは、レンズ鏡胴外観が黒色で、黒鏡胴タイプと呼ばれています。今回整備を施したレンズは、その内のCanon Lensモデルになります。見た目はSerenaタイプと全く同じです。
Canon 50mm F1.8 L39マウント黒鏡胴モデル
このモデルも、構造的には大きな違いはありませんが、レンズ鏡胴内部に組み込まれている一部のガラス部位が経年劣化で、磨りガラスの様な症状になってしまっている個体が散見されますので、これから新たにCanon 50mm F1.8 L39マウントモデルを購入したいと思っている方は、特別な愛着やこだわりがないのであれば、銀鏡胴モデルを選んでもらえれば問題ないと思います。
フイルムカメラ時代の組み合わせ例
当時はこの写真の様に、こんなフイルムカメラに装着して撮影を楽しんでおられたのだと思います。このフイルムカメラ本体も、実は26種類製造されていて、外観はどのモデルもとても似ているのですが、厳密にいうと26種類のモデルに分類されます。興味がある方は、キャノン公式サイトを閲覧下さい。
バルナック型フォーカルプレーン式レンジファインダーカメラの種類に関する情報収集元は、Canon Camera Museum になります。こちらのWebサイトに全ての機種の概要は掲載されています。>>>Canon Camera Museum公式サイトはこちらから
当協会では、昔このフイルムカメラに特化して研究をしていた時期がありまして、26機種の内5機種までは、コンテンツとしてまとめる事ができました。特定できる根拠と、各種ダイヤル、レバー、ボタン類、35mmフイルムの装填方法等々、動画も交えて解説していますので、宜しければ、こちらも併せてご閲覧下さい。
L39マウントレンズの注意点
写真愛好家の方であれば、周知の事柄とは思いますが、L39マウントのレンズは、元々レンジファインダーフイルムカメラ用の交換レンズとして製造されていました。M42規格同様、マウント形状がスクリュータイプですので、フォーカス調整ダイヤルのトルクが重いと、調整ダイヤルを回しているのに、レンズ本体がカメラ本体から緩んでしまうというストレスが発生してしまいます。こんな理由から、当協会で整備する際には、そのトルク感はやや軽めに調整しております。
今回整備したレンズ詳細
機種名 | Canon 50mm F1.8 銀鏡胴 Canon Lensモデル |
シリアルNO | 94351 |
付属品 | 純正フロントキャップ、フイルター |
整備内容 | 全体的な検査 |
整備目的 | 整備後にECモールサイトで販売 |
レンズ鏡胴外観
半世紀前の製造年代を考えると、大きな凹み等なく、全体的にスレはありますが、実用品レベルとしては綺麗な方だと思います。絞り羽調整ダイヤルメモリが見えにくいと思いますが、その駆動には問題ありません。殆どの写真家の方は、この指標数値を目安にして適正露出を判断していないと思いますので、実写に際してはストレスは少ないと判断致します。
付属品のフロントキャップはメーカー純正品ですが、一部凹みがあります。レンズ保護の為に是非保管時は装着してご所有下さい。尚、外観に関しましては、詳しくはモール型ECサイト商品写真も併せてご参照下さい。
絞り羽ユニット機構
調整ダイヤルは、その指標数値刻印が見えにくい状態ですが、16から1.8の指標領域までムラなくスムースに駆動しています。スプリングがベアリングを押し上げ、規定のプレート溝に収まって駆動するクリック型調整ダイヤルになります。
この写真の様に、絞り羽フイルム本体に油染みが散見されます。絞り羽ユニットBOXのスプリングが解放方向か絞り方向に常時作用している構造の機種の場合、油染みが原因で絞り羽が開放のまま固着してしまうという症状の原因になるので、一般的には、この油染みはマイナス要因として評価されますが、Canon 50mm F1.8レンズの場合は絞り羽ユニットBOX機構に、スプリングが組み込まれていませんので、この油成分が絞り羽フイルム本体のサビ防止にもなりますので、今回は敢えて除去処置は施しておりません。その駆動はとても滑らかです。
フォーカス調整機構
無限遠固定ボタン快適に作動しております。そのスプリングもまだまだ生きています。フォーカス調整機構螺旋状部に経年の汚れが目立ちましたので、除去処置施しました。
その後、該当螺旋状部再グリスUP施しておりますので、そのトルク感はしっとりとして滑らかな状態に復元しております。スクリューマウント形状ですので、少し軽めに調整致しました。
チョウ度=T1グリス
トルクを軽めに仕上げたかったので、グリスはチョウ度=T1グリスを採用しました。このトルク感は人により嗜好が異なりますので、お好みの感覚に仕上げるのは難しいのですが、L39マウント規格形状ですので、軽めの方が実写に際してストレスはないと判断しました。
光学系付着物
レンズ鏡胴内部に組み込まれているすべての硝子部位表面に付着していた埃・カビ除去処置施しましたので、スカッと抜ける様な眩しい個体に復元しております。レンズ全体が綺麗に復元した分、元々あった硝子表面のスレ傷が目立ちますが、実写には影響はないと判断致します。整備後風景写真も撮っていますのでご参照下さい。本来は、適切なペーパー若しくは布でお手入れしてもらえれば、この様な微細な傷は付かないのですが、現在流通しているこの機種は残念ながら全てスレ傷があります。
除去前光学系付着物の状態
製造から半世紀くらい経っているこの機種は、下記写真の様な状態の個体が殆どです。このモデルは硝子部位も高品質な素材でできていますので、カビは付着しますが、除去後の腐食痕が残る事がなく、とても良い状態に復元するケースが多いです。
例え保湿庫なる空間で保管していても、レンズの未使用期間が長期化しますと、カビが発生してしまう可能性が高くなってしまいます。今回整備したレンズは、ご希望であれば、購入後の無償補償を付けておりますので、所有中にもしもカビが生えてしまった場合は、無償で整備致しますのでご安心下さい。その場合、往復の送料はご負担お願い致します。カビ再発防止の為にも入手後はマメに使って頂きます様お願い申し上げます。
Canon 50mm F1.8 L39マウントというレンズの構造
すべての機種に該当するわけではありませんが、L39及びM42マウント形状のモデルは、その構造に共通点があります。下記写真の様な構造になります。
この写真の様に、レンズ鏡胴が大きく二つの部位で構成されています。中央の鋼鉄はがねリングは左右のパーツを一つに固定するリングになります。向かって左側のパーツには、フォーカス調整機構が組み込まれています。右側部位には、光学系硝子部位と絞り羽ユニット機構が組み込まれています。こういう構造になっています。金属部位及びネジ山もとても精巧に作られていて、当時の職人さんの技術を感じる事ができます。
そのあと工程にて、この写真の様に順番に検査していく事になります。構造の理解と、整備に必要な治具・溶剤があればどなたでも整備できます。再組み立て時に気をつけなければならないポイントは、絞り羽調整ダイヤル指標マークと、フォーカス調整ダイヤル指標マークを一直線上に合わせて組み直す事です。Contax Gタイプの機種以外は、この二つの指標マークは必ず一直線上に位置します。
マウントアダプター
L39マウント形状のフイルムカメラでお使い頂く分には問題ありませんが、普段ご愛用のデジタルカメラでこのレンズを使う場合は、形状規格が会ったマウントアダプターが必要になります。
私は、風景写真を撮る際にSONY NEX というミラーレスカメラを使っておりますので、そういう場合は上記写真の様なアダプターが必要になります。ご自身のカメラ規格に合わせたアダプターをご用意下さい。
整備後 Canon 50mm F1.8 L39 レンズで撮影した風景写真
私は写真家ではありませんので、実写に関しましては何も言及できませんが、整備後このレンズで撮影したいくつかの写真掲載させて頂きます。このレンズの開放F値=1.8を生かして、概ね開放設定にて撮影してみました。
カメラのモードをマニュアル設定にして、絞りはレンズで調整します。シャッターボタンを半押ししても、自動でピントは合わないので、ピント合わせは自分の感性で行ないます。私の撮影レベルでは、ピント合わせと適正露出の表現が限界ですが、宜しければご参照下さい。
オールドレンズで撮影した身近な自然風景写真館
他のオールドレンズで撮影した写真集も公開しております。宜しければご参照下さい。
撮影場所は、当協会所在地から自転車で10分くらいで行ける、松戸市古民家文化財に登録されている旧斎藤邸敷地内で撮影しています。この空間は個人的にもとてもお気に入りで、まるで時が止まってしまった様な、静かでとても落ち着ける空間です。
お弁当を持って、3時間位撮影していると何だか元気が湧いてきます。きっと、あなたの傍にも心を癒してくれる身近な自然風景があると思います。松戸市内では数少ない光景が広がっています。詳細は、松戸市教育委員会広報公式サイトをご閲覧下さい。
販売後の無償整備補償に関しまして
ご希望であれば、このレンズを購入して頂いた方には、販売後の無償整備保証を付けております。通常使用下において発生した支障に関してでしたら、所有者さんの変更がない限り、いつでも無償にて整備致します。詳細は、出品ページ解説をご参照下さい。
出品ECモールサイト通信欄て無償整備保証希望とご記入下さい。この制度をご希望の場合は、レンズ本体と一緒に検査証を同梱致しますので、無償整備保証制度適用時にお使い下さい。その場合、往復の送料はご負担お願い申し上げます。
ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導お願い申し上げます。