Nikon EMとLens Series E
Nikon EMというフイルムカメラは、米国市場からの強い要望を受け開発がスタートしたカメラになります。徹底した小型軽量低価格を実現するために、内部機構も一から設計をし直し、部品点数を削減すると共に、カメラ上下カバーや巻き上げレバーなど、各所にプラスチックを使うことで小型軽量と低価格を両立させて製造されました。このプラスチック採用には、当時のEP=エンプラ=エンジニアプラスチックの日本における研究・開発の歴史的な背景も大いに関係しています。
写真の様に、小さな女性の手にもなじみやすい様に、やや丸みを帯びた可愛らしいフォルムで誕生しました。発売当時はNikonがとうとうプラスチックボディを作ったと評判は良くなかったのですが、小型で軽量でありながらNikonらしいしっかりとした機構から、EMはリトルニコンの愛称で親しまれるようになりました。又、Nikon F3と同時期にデザイナーのジウジアーロ氏にデザインされた事から、姉妹機として比較されることも多いカメラになります。
そしてLens Seies Eもこの小さなNikon EMにあわせ、小型軽量実現の為、レンズの外観部や絞りリング、レンズを保持するレンズ室等にプラスチックを多様化し、レンズによってはヘリコイド部分までプラスチック化して軽量化を達成しました。又、光学系部分も可能な限りレンズ枚数を減らしたり、低価格なガラス材料を使う等して低価格を実現しています。
この様な背景でNikon EMとLens Series Eは開発され、1979年3月に米国デビューを果たす事になります。一方、国内ではNikon EM発売に対する慎重論が強く、フラッグシップ機F3の発売にあわせて発表することで決着し、米国から1年遅れて1980年3月に発売されました。そして国内の一部の懸念を払拭する様に、Nikon EMは生産数150万台を超えるヒット商品となり、FGやFG-20といった後継機を生み出し現在に至っています。
EP技術部
Nikon 第七十六夜
エンプラ=EPとは
エンプラとは、従来の汎用プラスチックの弱点であった、強度や耐熱性などの問題を克服した高機能なプラスチック群の総称です。エンプラの明確な定義はありませんが、一般的には100℃以上の耐熱性を持ったプラスチックとされています。
1960年代に入ると世界的に工業生産が盛んになり、国内においても高度経済成長期を迎えます。大量生産・大量消費に対応するため、生産品の部材・部品には「安く、軽く、簡単な加工」などのニーズが高まり、プラスチックの金属代替としての可能性が模索されていました。又、同時期には世界各国で大規模な石油化学コンビナートの建設が相次ぎました。そのような時代背景の中、次々と開発されたのがエンプラ=エンジニアリングプラスチックなのです。
エンプラ、スーパーエンプラの基礎知識
Nagase プラスチック(株)
Nikon Series E レンズ
小型軽量なEMに合うように設計されたEシリーズのレンズは、単焦点レンズが5本、Zoomレンズが3本、合計8本製造されています。特に、ボディとセット販売されていたSeries E 35mm F2.5は装着した時のバランスが良く、35mmという焦点距離も使いやすい一本だったそうです。
単焦点 | Zoom |
Series E 28mm F2.8 | Series E 36-72mm F3.5 |
Series E 35mm F2.5 | Series E 75-150mm F3.5 |
Series E 50mm F1.8 | Series E 70-210mm F4 |
Series E 100mm F2.8 | |
Series E 135mm F2.8 |
修理の世界から、この様なエンジニアリングプラスチック素材のレンズに関しての所見と致しましては、プラ素材の部位が固着している場合、固着緩和剤が使えないというケースが多いので、そのレンズが抱えている問題を解決する為の、レンズ鏡胴内部へのアクセスが想定通りに進まないケースもあります。
今回整備致しましたレンズ詳細
機種名 | Nikon Seriez E 100mm F2.8 |
シリアルNO | 1936734 |
付属品 | 前後キャップ |
整備内容 | 全体的な検査 |
整備目的 | 整備後にECモールサイトで販売 |
レンズ鏡胴外観
製造から40年以上経過していますが、レンズ鏡胴外観は若干の擦れは散見されますが、全体的には綺麗な部類に入ると思います。ECモールサイトの出品ページの掲載写真もご参照下さい。
絞り羽ユニット機構
解放値F2.8~絞り値F22まで全領域でスムースに駆動しています。そのクリック感も丁度いいと感じます。絞り羽フィルムに油染みなどはありません。
クリック型調整ダイヤルになります。スプリングが常時ベアリングを押し上げて、七箇所のプレートの溝にしっかり収まっております。
フォーカス調整機構
至近距離指標から無限遠指標まで、全領域でスムーズに駆動しています。トルク感はやや軽めに仕上げています。
Nikon Series E レンズの中では、この機種はフォーカス調整螺旋状部がアルミ金属で造られています。この金属の摩耗を防ぐ為にも軽めのグリスで調整しました。
ご家庭での簡易的な整備
もしも、ご家庭で簡易的な整備を施す際、リヤ側からアクセスする場合は、埃等侵入防止金属部位を取り外す事になりますが、その際、絞り羽ユニットBOX機構スプリングを、再組み立て時に埃等侵入防止金属部位外周に戻す様に留意して下さい。
スプリングを直線状のまま再組み立てしてしまうと、絞り羽調整ダイヤルが動かなくなってしまいますので、注意が必要です。
光学系付着物
レンズ鏡胴内部に組み込まれているすべての硝子部位表面に付着していた埃・カビ除去処置施しましたので、強い光源に翳すと、微細な埃等目視できると思いますが、スカッと抜ける様な眩しい個体に復元しております。あくまでもこのレンズでの撮影を楽しんで頂きたい方に購入してもらいたいので、コレクター目的の神経質な方の入札はご遠慮下さい。又、整備後風景写真も撮っておりますので併せてご参照下さい。
マウントアダプター
Nikonマウント形状のフイルム若しくはデジタルカメラでお使い頂く分には問題ありませんが、その他メーカーの、普段ご愛用のデジタルカメラでこのレンズを使う場合は、形状規格が合ったマウントアダプターが必要になります。
私は、風景写真を撮る際にSONY NEX というミラーレスカメラを使っておりますので、そういう場合は上記写真の様なアダプターが必要になります。ご自身のカメラ規格に合わせたアダプターをご用意下さい。
整備後 Nikon Seriez E 100mm F2.8 レンズで撮影した風景写真
私は写真家ではありませんので、実写に関しましては何も言及できませんが、整備後このレンズで撮影したいくつかの写真掲載させて頂きます。このレンズの開放F値=2.8を生かして、概ね開放設定にて撮影してみました。
カメラのモードをマニュアル設定にして、絞りはレンズで調整します。シャッターボタンを半押ししても、自動でピントは合わないので、ピント合わせは自分の感性で行ないます。私の撮影レベルでは、ピント合わせと適正露出の表現が限界ですが、宜しければご参照下さい。
オールドレンズで撮影した身近な自然風景写真館
他のオールドレンズで撮影した写真集も公開しております。宜しければご参照下さい。
撮影場所は、当協会所在地から自転車で10分くらいで行ける、松戸市古民家文化財に登録されている旧斎藤邸敷地内で撮影しています。この空間は個人的にもとてもお気に入りで、まるで時が止まってしまった様な、静かでとても落ち着ける空間です。
お弁当を持って、3時間位撮影していると何だか元気が湧いてきます。きっと、あなたの傍にも心を癒してくれる身近な自然風景があると思います。松戸市内では数少ない光景が広がっています。詳細は、松戸市教育委員会広報公式サイトをご閲覧下さい。
販売後の無償整備補償に関しまして
ご希望であれば、このレンズを購入して頂いた方には、販売後の無償整備保証を付けております。通常使用下において発生した支障に関してでしたら、所有者さんの変更がない限り、いつでも無償にて整備致します。詳細は、ECモールサイトの出品ページ解説をご参照下さい。
出品ECモールサイト通信欄て無償整備保証希望とご記入下さい。この制度をご希望の場合は、レンズ本体と一緒に検査証を同梱致しますので、無償整備保証制度適用時にお使い下さい。その場合、往復の送料はご負担お願い申し上げます。
ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導お願い申し上げます。