Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 修理記録

Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8

Carl Zeiss製標準レンズで、一般的に周知されているモデルで、多くの写真家の方に支持されるレンズといえば、Carl Zeiss Planar 50mm F1.4モデルが挙げられるのではかと思います。非常に柔らかいボケ味の中にも芯の通ったシャープさを魅せてくれるPlanarの描写はCarl Zeissの神髄とも呼べる一つの特長といわれていますが、ボケ味だけがZeissの魅力では無いと感じさせてくれる力強いコントラストと、しっかりしたシャープさを示してくれる描写を持つ、もう一つのZeiss製名作標準レンズと言えるレンズが、今回お預かり致しましたPancolar 50mm F1.8なります。

Carl Zeiss Planar 50mm F1.4
Carl Zeiss Planar 50mm F1.4

一昔前まではCarl Zeiss Jena製という出自や、やや癖の残る描写性能が要因で、Planarに比べるとやや陽の当たらない立場に置かれていたレンズの印象が強いのですが、時代を経るとともに写真家の間ではその評価も高まってきている様です。当協会への修理ご依頼件数も毎月増えてきている感がございます。この機種は、構造的にはPlanarモデルと似ていて、その構造を理解していればどなたでもご自宅にて整備ができると思います。主な症状と致しましては、カビの様な光学的な付着物と、絞り羽が開放のまま固着してしまうという典型的なオールドレンズ特有の症状を抱えている個体が多いです。

レンズ検査ご依頼までの流れ(経緯)

今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。

ご依頼者様から頂いたメール

お世話になっております。レンズの整備をお願いしたくご連絡しました。Carl Zeiss Jena Pancolar Auto 50mm F1.8 です。

以前整備していただいたものと同じ機種ですが別の個体です。以前整備していただいた個体は今も大活躍しているのですが、ときどき(気温が低いとき?)絞りの調子がどうにも良くないことがありまして、2台持っていれば良いのではないかと思い、同じ機種のレンズをもう1台購入しました。

中古でAB品だったのですが、内部に大きめのホコリがいくらか見えるため、除去をお願いします。他にも、前玉か中玉の周辺部にカビのようなものが見えるため、可能であれば除去をお願いします。また、ピントリングがあまりに軽いため、グリス切れではないかと考えており、併せて見ていただけますでしょうか。お手数ですがよろしくお願いします。

こちらからのお返事

【光学系付着物に関しまして】

除去処置に必要なレンズ鏡胴内部へのアクセスが順調に進めば、課題が解決するケースはございます。

【フォーカス調整ダイヤルトルク感に関しまして】

フォーカス調整機構螺旋状部金属同士の隙間が摩耗により空いている場合は、再グリスUP処置にてその隙間からグリスが流れ落ちてしまい絞り羽ユニット機構に新たに問題が生じてしまうケースもあります。

この様な事柄を勘案された上で、整備ご依頼をご検討される事を推奨させて頂きます。宜しければご参照下さい。

ご依頼者様から頂いたメール

日本レンズ協会 田斉さま お世話になっております。
いろいろ考えまして、やはり一度メンテナンスしておいた方が良いと考えますので、お手数ですがメンテナンスをお願いします。本日午後に宅配便でお送りします。よろしくお願いします。

今回お預かり致しました機種

Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 付属品
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 付属品
機種名Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8
シリアルNO16258
付属品前後キャップ、フイルター
課題(所有者さん見解)光学系付着物とフォーカス調整ダイヤルトルク感
ご希望予算特になし

整備報告

光学系付着物除去に関しましては、レンズ鏡胴内部に組み込まれている、全ての硝子部位表面に付着していた埃・カビ除去処置施しましたので、光学的なクリアー度は復元しております。付着していたカビの種類は主に点カビでした。カビ除去後の腐食痕も少なく、復元状態は良好と判断致します。

順番に検査

このモデルの場合は、対物側からアクセスする際は、下記写真の様硝子部位ユニットをレンズ鏡胴から取り外していく順番になります。

Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 レンズユニット
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 レンズユニット

そして、このレンズユニット内部に組み込まれている各硝子部位に付着している光学系付着物も除去していく処置になります。

除去前付着物状態写真

Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 点カビと埃
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 点カビと埃
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 無数の点カビ
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 無数の点カビ

付着物除去処置の際に、レンズ鏡胴内部主なパーツのカビ再発防止処置も施しておりますが、未使用期間が長期化しますと、再発の可能性が高まりますので、納品後はなるべく頻繁にご使用頂きます様ご協力お願い致します。カメラ本体に装着しなくても、レンズ単体を手に取って頂き、レンズ鏡胴内部に空気の流れを醸し出してあげれば再発防止の有効な手段になります。

フイルターに関しまして

付属品としてのフイルター硝子部位は少し劣化が進行しています。レンズ硝子表面の保護という意味合いでは使用可能と思いますが、フイルターを装着しての実写は限界を迎えていると診断致します。

除去前付着物状態写真

Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 雲状カビと埃
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 雲状カビと埃

念の為に光学系付着物は除去致しましたが、今回の整備を機に、今後もフイルターを付けての撮影を想定されておられるのでしたら、買い替えをお勧め致します。ご検討下さい。

絞り羽ユニット機構

修理ご依頼内容には、絞り羽ユニット機構はございませんでしたが、念の為にこの機構も検査致しました。フォーカス調整機構螺旋状部グリス落ち現象もなく、乾いた状態で問題ありません。厳密に検査致しますと、絞り羽フイルム本体二箇所に痛みが発生しておりますが、耐久的にも実写に際しても問題はないと診断致します。

Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 開放時
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 開放時
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 絞り時
Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 絞り時

常時絞り羽フイルムを絞る方向に作用しているスプリングもまだまだ十分に生きておりますので、この個体に関しましては、今後もしばらくの期間は撮影の友として充分に所有して頂いて問題ないと判断致しますので、今まで同様大切にご所有下さい。

フォーカス調整機構

お問い合わせのメール内容にて、フォーカス調整機構螺旋状部のグリス切れという文章がございましたが、お電話にてもお伝え致しましたが、この個体に関しましては、グリスもまだ生きておりまして、やや軽めのトルク感ではございますが、正規規格感覚内と診断致しますので、今回はこの機構は現状のまま納品させて頂きます。Carl Zeiss Jena DDR Pancolar Auto 50mm F1.8 というモデルは、フォーカス調整機構螺旋状部グリスが、絞り羽ユニット機構に流れやすい構造の様ですので、敢えてこの機構のグリス周りを弄らない方がいいと判断致しました。この点ご了承お願い致します。

納品に関しまして

※お願い・・・着払い伝票扱いにて発送させて頂きます。銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。

発送方法クロネコ着払い便
送り状NO別途メールにて報告
配送状況お荷物追跡システム

ご決済に関しまして

整備費10,000円(税込)
クロネコさん送料着払い伝票扱い
決済方法銀行振り込み
合計10,000円
お願いご決済後メールにてお知らせ下さい
お振込み先銀行

・みずほ銀行
・五香支店
・口座名義 一般社団法人 日本レンズ協会
・普通口座
・口座番号 1715154

山田 太郎の様にご記入下さい

発送後ご依頼者様から頂いたメール

田斉さま、お世話になっております。レンズを整備いただきありがとうございます。
本日(5/18)整備費を振込いたしましたのでご確認ください。いろいろと質問ばかりですみませんが、記事を拝見しまして、絞り羽を絞っているスプリングについて書かれているところで「レンズの保管時には絞りはどうしておくのが最善なのだろうか?」と疑問がわいてしまいました。恐らく逆に開放側に引っ張るスプリングもあるのだろうと思いますので、開放にしても絞っても何らかのスプリングに力がかかりそうです。しかし、絞り羽にとっては開放がよさそうです。また、マニュアル/オートの切替も何かの影響を与えそうです。私の勝手な予想では、「オートに切り替えておく」のが最善ではないかと思いました。お手すきのときにご意見をお聞かせいただけますと幸いです。

ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔

kensuke tasai と申します。 光学機器の修理を主たる業務としております。 関連コンテンツも並行して配信させて頂いておりますので、リクエストございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。