修理行程コンテンツを公開する主旨
日本中のレンズのメンテを日々させて頂いておりますが、本当に困ってから修理依頼をなさる方々が多いのが実情です。レンズは撮影の為の道具の一種です。本来は、適切で定期的なメンテナンスが必要なのですが、何か問題が起きてから行動に移す方が沢山いらっしゃいます。
ご自身で所有するレンズが、ある程度ご自宅にて自分でメンテナンスできれば、それが一番理想的ではないかと、日々人様のレンズに対峙しながら、長い期間感じておりました。
パソコン等のツールも行き渡り、全てのやり取りがWEB上で可能になりました。又、動画の収録・再生も個人レベルで可能な時代になりました。我々修理のプロも、その経験・技術をオープンにして、皆様のお役に立てる方法を開示するべき時代が来たのだと思っております。
勿論、レンズの修理を従来通り専門業者に委ねる流れも、丁寧な処置前診断、価格の透明性、修理内容の開示等よりお客様が安心してレンズを委ねられる様な環境の改善は、引き続き行ってまいります。この教科書の配信を通じて、写真愛好家の方々の撮影ライフの一助となります事を願って止みません。
Carl Zeiss Tessar 45mm F2.8というレンズ
Carl Zeiss Tessar 45mm F2.8レンズは、中広角レンズの一種になりますが、ボデイーの大きさも携帯に便利で、発売当初から人気のあった機種になります。現在もこの様な理由で写真愛好家の方々から毎月修理依頼を受けている機種ですが、レンズの構造を理解して、整備の為の最低限必要な治具溶剤を揃えれば、充分に自宅でメンテナンスができる機種の一種ですので、このWebサイトのコンテンツを学習して頂き、ご所有レンズの状態維持にお役立て下さい。
第Ⅰ部
第Ⅰ部ではフロント側からのアクセス方法とその工程にて必要な治具について解説致します
目指すGOALはこの様な風景になります
・フロント側から順番にアクセスしこの様な状態にします。
・前玉を取り外す工程です。
・この様な状態にする為の手順です。
・この教材ではフロント側から数えて一枚目のレンズを【F1】レンズと呼びます。
アクセス手順①
・前玉押え化粧リングを外します。
・このレンズの個体名が刻印されているリングです。
・この機種はリングというよりは筒型になっています。
ゴム治具を使います
・この様なゴム治具を使って下さい。
・加工の仕方は次に解説します。
この様なゴム治具をレンズ押え化粧リングにあてがいます
・すり鉢状に加工します。
・ゴム治具が直接レンズ表面に触れない様に加工します。
・その際彫刻刀を使います。
・価格目安:100円
・ユニデイー
アクセス手順②
・ゴム治具を写真の様にあてがいます。
・少し小さ目のゴム治具になります。
・径が一緒な程回し安くなります。
・少しずつ色々な径の治具を揃えていって下さい。
・ポイントは押え気味にしながら回す事です。
アクセス手順③
・フロント化粧リングが外れました。
・段々、パーツが増えてきます。
・この段階から作業台上は整理整頓して下さい。
レンズ内部はこの様な状態です
・次に前玉押さえリングを外します。
・180°相対して切込みがある小さなリングです。
・ゴム治具を使います。
注意点
・金属製の治具は使わないで下さい。
・力が入り過ぎてレンズを壊してしまう場合があります。
・リング径と同サイズのゴム治具を使用して下さい。
・万が一固着して外せない場合は個別にお問い合わせ下さい。
アクセス手順④
・前玉押さえリングを外します。
・同径のゴム治具を使って下さい。
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:100円前後
・ユニデイー
前玉押さえリングを外す為のゴム治具
・この様な小さい径のゴム治具も重宝します。
アクセス手順⑤
・この様に前玉押さえリングに当てがいます。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。
・固着している場合は個別にお問い合わせ下さい。
アクセス手順⑥
・前玉押さえリングが外せました。
・前玉も外して作業台に並べます。
・作業台上はこの様な風景になります。
・整理整頓と外した順番が大切です。
アクセス手順⑦
・前玉押さえリングです。
・とても小さな部品です。
・表裏は区別がつき易いですが間違わない様に !
・紛失しない様に注意して下さい。
アクセス手順⑧
・前玉です。
・とても小さなガラス玉です。
・表裏は区別がつき易いですが間違わない様に !
・マーキングは必要ないと思います。
・紛失しない様に注意して下さい。
・このガラス玉を作業台の上に乗せます。
・表面、裏面両面を洗浄します。
・洗浄方法は下記解説を参照して下さい。
アクセス手順⑨
・絞り羽根手前の中玉も洗浄します。
・この部分は鏡胴本体に付いたままの状態で処置します。
・表側面のみをクリーニングします。
・洗浄方法は下記解説を参照して下さい。
アクセス手順⑩
・以上でフロント側からのアクセス・処置は終了です。
・第二章のリヤ側からの処置方法に入る前に一度レンズを組み立てます。
・一度に全工程を処置しないで分割して区切りをつけます。
・下記写真の様に元の状態に戻してください。
組立て時の注意点
・一枚一枚のレンズの状態を再度確認して下さい。
・問題がなければ再組立て作業に進みます。
・空気中の埃が必ず付着していますのでブロアーで仕上げて下さい。
・この時、少し時間がかかりますのでレンズに空気中の埃が付着します。
・必ず組立る直前にその埃をブロアーで飛ばして下さい。
・お勧めのタイプは、独立起立型のブロアーです。
・少し割高になりますが、コロコロ転がるタイプのものは作業に集中できません。
・入手先:ヨドバシカメラ
・価格目安:2,500円前後(サイズによります)
第Ⅱ章
第二章ではガラス玉の洗浄に必要な治具・溶剤について解説します。取り外した【F1】レンズ両面と【F2】レンズ表面の洗浄方法は第二部リヤ側と同様です。
クリーニング専用ペーパー
・レンズの洗浄には専用ペーパーを使って下さい。
・推奨は【dusperΣ】です。
・チョット高価ですが是非【ダスパー】を購入して下さい。
・一枚一枚が大きいので四分の一にカットして使って下さい。
・同じくカメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:1,500円前後
・ヨドバシカメラ
かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
四分の一サイズがベストです
・もしかしたら小さいサイズの規格商品が市販されているかもしれません。
・ハサミでカットして下さい。
・1クリーニング=1枚を使用します。
・同じペーパーを何度も使い回ししない事。
・使用後のペーパーは鏡胴外観等の拭き取りに使います。
カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます
・上手く巻きつけができない時はセロテープを使ってださい。
・その際はなるべく根本にテープを巻きます。
・金属製のピンセットは使用禁止です。
・レンズを傷付ける恐れがあります。
ハンドラップの先端をプッシュします
・必要分が出てきます。
・高価なのでほんの少しで充分です。
・沢山使えば綺麗になるという訳ではありません。
ハンドラップとレンズ専用クリーニング溶剤
・当協会ではカビが除去しやすく、拭きムラが残り難い専用溶剤を使っています。
・一般の方はカメラ量販店等で扱っているレンズクリーニング溶剤で十分です。
・それでもかなり高価ですから、無駄なく使って下さい。
・沢山使用すればよいと言うものでもありません。
・カメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:3,000円前後(300ml)
・ヨドバシカメラ
・保管容器のお勧めは【ハンドラップ】です。
・蒸発も防止できて必要分をプッシュして使えます。
・片手で必要量が出てくるのでとても重宝します。
・入手先:東急ハンズ等
・価格目安:2,000円前後(材質・サイズによります)
・東急ハンズ
ここからは、リヤ側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します。
検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・リヤ側から検査・分解しこの様な状態にします。
・後ろ玉×1枚を外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・その後、後玉【R1】×両面、中玉【R2】×片面表面を処置します。
・この教材ではリヤ側から数えて一番目レンズ=【R1】レンズと呼びます。
アクセス手順①
・先ず、後ろ玉押さえリングを外します。
・小さな丸い穴が180°相対して空いています。
・第一部で解説した様に金属の治具はつかいません。
・このリングを外すと後ろ玉も外せます。
ゴム治具を使用します
・この様なゴム治具を使って下さい。
・ゴム治具径がやや小さ目ですが問題ありません。
・市販の既製品です。
後ろ玉押さえリングを外す為のゴム治具
・この様な小さい径のゴム治具もテッサータイプの整備には重宝します。
アクセス手順②
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・少しゴム治具径の方が小さいです。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。
アクセス手順③
・後ろ玉押さえリングが外れました。
・段々、パーツが増えてきます。
・この段階から作業台上は整理整頓して下さい。
アクセス手順④
・後ろ玉はこの様に組み込まれています。
・このレンズをで手で挟んで外します。
アクセス手順⑤
・後ろ玉が外せました。
・外した順番が大切です。
・後ろ玉は形状に特徴があります。
・マーキングは必要ないと思います。
・組み込まれていた時の向きを覚えておいて下さい。
これが後ろ玉です
・このガラス玉をクリーニングしていきます。
現在の作業台上の風景
・現在はこの様な風景になっています。
・繰り返しになりますが順番と向きが重要です。
・整理整頓しながら作業して下さい。
アクセス手順⑥
・後ろ玉【R1】レンズからクリーニングします。
・使用治具・溶剤は第一部をご参照下さい。
・中央から外側に向かって洗浄します。
・ササッと素早く処置します。
・段々慣れてくると上手になります。
アクセス手順⑦
・次に中玉表面【R2】レンズを洗浄します。
・絞り羽根の向こう側です。
・絞り羽根絞り時は処置禁物です。
・絞り羽根を壊してしまいます。
・この点重要ですので注意して下さい。
絞り羽の状態に注意して下さい
・繰り返しになりますがこの状態ではだめです。
・大切なポイントですので十分理解して下さい。
絞り羽が開放状態
・必ず開放状態で処置します。
・調整ダイヤルで開放に合わせて下さい。
アクセス手順⑧
・それでは中玉表面【R2】レンズをクリーニングします。
・使用治具・溶剤は第一部をご参照下さい。
・中央から外側に向かって洗浄します。
・ササッと素早く処置します。
・段々慣れてくると上手になります。
・最初の内はあまり無理せずに特に中央を洗浄します。
・それでも十分クリアーに復元します。
お疲れ様でした
・これですべてのレンズ表面のクリーニング終了です。
・前述したブロアーを使って下さい。
・組立て時に空気中の埃の付着等確認します。
・順番と向きを間違わない様にして下さい。
・付属品等も確認して大切に保管して下さい。
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自分のレンズは自分でメンテ!対象レンズ : Carl Zeiss Tessar 45mm F2.8
本書は「Carl Zeiss Tessar 45mm F2.8」のレンズメンテナンスをプロレベルで行うための教科書です。レンズの修理、カメラレンズのカビ、オーバーホール、分解、清掃等にお悩みの方はぜひお読みください!本書に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼があった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容は写真を見ながらじっくり再現すれば、あなたが所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。自分のレンズと同機種なのかをまずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化になっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。また、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。このままですと、いずれ世界中にある昔のレンズを修理できる人がいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行し、教育分野に取り組んでいます。その一環として、本書『カメラレンズ修理の教科書』をシリーズ化してまいります。本書では、プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、プロが行うのと同じ様な結果が得られる構成になっております。ぜひ本書をお読みになり、プロフェッショナルのレンズメンテナンスをマスターしてください。
著者プロフィール
田斉健輔(タサイ・ケンスケ)
一般社団法人日本レンズ協会 代表理事。光学研究所 所長。1960年、生まれ。祖父がライカカメラのレンズ職人だった為、幼少の頃からカメラレンズに慣れ親しむ。東京学芸大学を中退後、自衛隊に入隊。その後、大手外食企業の東日本統括部長に就任。2004年、カメラレンズのメンテナンス・修理の事業を興す。2011年、一般社団法人日本レンズ協会設立。今後、カメラレンズ修理の専門学校設立を構想している。ミッションは、日本の古き良きカメラレンズを、良い状態で後世に残していくこと。