レンズ修理行程コンテンツを公開する主旨
この教材に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼のあった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容を写真を見ながらじっくり再現すれば貴方が所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。
自分のレンズと同機種なのかを先ずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。レンズ鏡胴内部の普段は滅多に触れる事のないガラス玉や絞り羽根に直接アクセスできる様になります。手順通り行えば、貴方のレンズは今後も末永くクリアーな状態で、良き撮影ライフのパートナーになってくれると思います。
古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化なさっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。又、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。
このままですと世界中にある特に昔のレンズを修理できる人がいずれいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行して教育分野の一環として、このレンズ修理の教科書をシリーズ化し、電子書籍の体系としての出版も並行して、コンテンツの配信を実行する事を第二の事業の柱にする事に致しました。
Carl Zeiss Planar 50mm F1.4というレンズ
写真愛好家の方々の言葉を借りると、標準レンズの帝王とか、空気を写すレンズと呼ばれるほど、不動の人気を誇るオールドレンズの一種になります。未だ私自身はこの機種で実際に実写はしていませんが、毎月同機種の修理依頼がある事からも、Carl Zeiss Planar 50mm F1.4というレンズの人気度はわかると感じています。CONTAX Planar 50mmには、F値が1.4、1.7の2種類がありますが、どちらもF値が1.8を切るレンズで、標準域のレンズでありながら大きなボケ感を得ることができます。
被写体を浮かび上がらせるような作品撮りにもおすすめです。又、被写体に思いっきり近づき、光の加減を見極めれば、背景のリングぼけも演出できます。幾つものオールドレンズで時々撮影を楽しんでいますが、単焦点レンズは、それぞれその機種特有の持ち味があります。近年は光学技術の発達によりデジタル機と相性のいい高性能なレトロフォーカスタイプ(ディスタゴンなど)の大口径レンズが出てきましたが、数値や解像度という言葉だけでは比べられないレンズの味というものが本レンズには色濃くあると個人的には感じています。
第Ⅰ部
第Ⅰ部ではフロント側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します。
検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・フロント側から検査・分解しこの様な状態にします。
・前玉ユニットを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・その後、前玉ユニット×両面ガラス玉表面を洗浄します。
・前玉ユニット内部のレンズに関しては別途お問い合わせ下さい。
・今回解説する処置で殆どの光学的な課題は解決します。
前玉ユニット群レンズ
・このユニット内部には複数枚のレンズが組み込まれています。
・この機種の傾向としてこの内部に支障があるケースは稀です。
・この教材ではこの内部に関する解説までは至っていません。
・必要があれば別途お問い合わせ下さい。
・少し専門的な知識・経験が必要です。
アクセス手順①
・先ず、フロント化粧リングを外します。
・レンズの名前が刻印されている部分です。
・この機種はリングというよりもカバー一体型の構造です。
ゴム治具を使用します
・この様なゴム治具を使って下さい。
・ゴム治具径が化粧リングと同じだと回し易いです。
・加工の仕方、入手先は次に説明します。
フロント側レンズ押え化粧リングを外す為のゴム治具①
・市販の物をこの様に加工しても構いません。
・中央をすり鉢状に削りレンズ面に触れないようにするのがポイントです。
・加工道具は彫刻刀が使いやすいと思います。
・単焦点50mmレンズ用としても一つあると重宝します。
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:100円前後
・ユニデイー
フロント側レンズ押え化粧リングを外す為のゴム治具②
・出来ればこの様な専門治具があると重宝します。
・極小~巨大まで各種径が揃っています。
・すべて揃えるとかなり高額になります。
・必要に応じて少しずつ揃えていく事をお薦めします。
・価格目安:5,000円~10,000円位(SET商品です)
・ディスカバーフォト:DiscoverphotoDiscoverphoto
アクセス手順②
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・ゴム治具径≒化粧リングになっています。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。
アクセス手順③
・フロント化粧リングが外れました。
・段々、パーツが増えてきます。
・この段階から作業台上は整理整頓して下さい。
アクセス手順④
・フロント化粧リングを外すとこの様な機構が現れます。
・前玉ユニットの頭部が見られます。
・次の作業はこの前玉ユニット機構を鏡胴本体から外す処置です。
アクセス手順⑤
・同じように専用ゴム治具を使います。
・フロント化粧リングを外す時に使った同規格治具です。
アクセス手順⑥
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・ゴム治具径≒前玉ユニットレンズになっています。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。
アクセス手順⑦
・前玉ユニット群レンズが外せました。
・この群レンズの後ろ玉は球面形状をしています。
・レンズ表面を傷つけない様に取扱いには注意して下さい。
鏡胴内部はこの様な構造になっています
・絞り羽根に直接アクセス可能な状態です。
・もしこの機構に課題がある場合はこのタイミングで処置します。
・お持ちの個体がこのケースの場合は別途お問い合わせ下さい。
・今回の教材ではこの課題には言及しておりません。
アクセス手順⑧
・取り出した前玉ユニット群レンズをクリーニングします。
・今回はこのユニットの後ろ玉表面のみを処置します。
・群レンズユニット内部に組み込まれているガラス玉に課題がある時は別途お問い合わせ下さい。
現在の作業台上の風景
・現在はこの様な風景になっています。
・繰り返しになりますが順番と向きが重要です。
・整理整頓しながら作業して下さい。
クリーニング専用ペーパー
・レンズの洗浄には専用ペーパーを使って下さい。
・推奨は【dusperΣ】です。
・チョット高価ですが是非【ダスパー】を購入して下さい。
・一枚一枚が大きいので四分の一にカットして使って下さい。
・同じくカメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:1,500円前後
・ヨドバシカメラ
かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
四分の一サイズがベストです
・もしかしたら小さいサイズの規格商品が市販されているかもしれません。
・ハサミでカットして下さい。
・1クリーニング=1枚を使用します。
・同じペーパーを何度も使い回ししない事。
・使用後のペーパーは鏡胴外観等の拭き取りに使います。
カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます
・上手く巻きつけができない時はセロテープを使ってださい。
・その際はなるべく根本にテープを巻きます。
・金属製のピンセットは使用禁止です。
・レンズを傷付ける恐れがあります。
ハンドラップの先端をプッシュします
・必要分が出てきます。
・高価なのでほんの少しで充分です。
・沢山使えば綺麗になるという訳ではありません。
ハンドラップとレンズ専用クリーニング溶剤
・当協会ではカビが除去しやすく、拭きムラが残り難い専用溶剤を使っています。
・一般の方はカメラ量販店等で扱っているレンズクリーニング溶剤で十分です。
・それでもかなり高価ですから、無駄なく使って下さい。
・沢山使用すればよいと言うものでもありません。
・カメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:3,000円前後(300ml)
・ヨドバシカメラ
・保管容器のお勧めは【ハンドラップ】です。
・蒸発も防止できて必要分をプッシュして使えます。
・片手で必要量が出てくるのでとても重宝します。
・入手先:東急ハンズ等
・価格目安:2,000円前後(材質・サイズによります)
・東急ハンズ
ユニット群レンズの後ろ玉表面をクリーニングします
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。
ユニット群レンズの前玉表面をクリーニングします
・この工程は再組立て後でも構いません。
・レンズの状態を見極める為にこの段階でクリーニングします。
アクセス手順⑨
・これでフロント側からのアクセス・処置は終了です。
・この段階でレンズを一度組立て直します。
・連続してリヤ側処置に移るのは避けて下さい。
・区切りをつけて作業します。
組立て時の注意点
・一枚一枚のレンズの状態を再度確認して下さい。
・問題がなければ再組立て作業に進みます。
・空気中の埃が必ず付着していますのでブロアーで仕上げて下さい。
・この時、少し時間がかかりますのでレンズに空気中の埃が付着します。
・必ず組立る直前にその埃をブロアーで飛ばして下さい。
・お勧めのタイプは、独立起立型のブロアーです。
・少し割高になりますが、コロコロ転がるタイプのものは作業に集中できません。
・入手先:ヨドバシカメラ ヨドバシカメラ
・価格目安:2,500円前後(サイズによります)
第Ⅱ部
第二部ではリヤ側からの検査・アクセス手順と必要な治具について解説します
検査・分解のGOOLはこの様な状態です
・リヤ側から検査・分解しこの様な状態にします。
・後ろ玉群レンズユニットを外す為の工程になります。
・この状態にする為の手順を解説します。
・その後、後玉群レンズユニット両面を処置します。
・後ろ玉ユニット内部のレンズに関しては別途お問い合わせ下さい。
・今回解説する処置で殆どの光学的な課題は解決します。
リヤ側後ろ玉ユニット機構を外します
・リヤ側後ろ玉ユニット機構が一体として外れます。
・ゴム治具を使ってアクセスして下さい。
アクセス手順①
・この様なゴム治具を使って下さい。
・リング径と同じものが理想です。
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:100円前後
・ユニデイー
ゴム治具
・第一部の物よりかなり径が小さくなります。
・色々な個体を処置していくと自然と治具も増えていきます。
アクセス手順②
・この様にレンズ本体に当てがいます。
・ゴム治具径≒化粧リングになっています。
・径が同じだとより回しやすくなります。
・少しずつ各種径のゴム治具を揃えて下さい。
・押しつけ気味に反時計方向に回します。
アクセス手順③
・これが後ろ玉群レンズです。
・ユニット内部にはレンズが組み込まれています。
・今回は内部のガラス玉にはアクセスしません。
・このレンズの両面をクリーニングします。
・それだけでかなりクリアーに復元します。
・内部ガラス玉に課題がある場合は別途お問い合わせ下さい。
・少し専門的な知識・経験が必要です。
レンズ鏡胴内部
・後ろ玉ユニットを取り除いた鏡胴内部はこの様な構造です。
・直接絞り羽根ユニット機構にアクセスできます。
・もし、動作系に課題がある場合はこのタイミングで検査します。
・この教材ではこの点には言及していません。
・個別にお問い合わせ下さい。
・尚、絞り羽根向こう側のレンズ表面は第一部にて処置済です。
ご参考までに
・絞り時の状態です。
・今回は絞り羽根ユニット機構は触らないで下さい。
・動作の確認は可能です。
作業台の風景
・現在この様な風景になっています。
・後ろ玉の形状も表裏区別がつき易いです。
・整理整頓は心掛けて下さい。
アクセス手順④
・後ろ玉表面をクリーニングします。
・治具、溶剤は第一部をご参照下さい。
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。
アクセス手順⑤
・後ろ玉裏面をクリーニングします。
・治具、溶剤は第一部をご参照下さい。
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
・初めのうちは拭きムラが出てしまいます。
・慣れてくると上手になります。
お疲れ様でした
・これでリヤ側からのアクセス・処置が終了しました。
・再組立て作業に入ります。
・前述しました様にブロアーを使って下さい。
・クリーニング状態を確認して空気中の埃の付着を飛ばします。
最終確認
・フィルター、前後キャップ等付属品も確認します。
・折角綺麗に復元したレンズです。
・適切な保管をお願い致します。
Amazon Kindle 電子書籍
初心者でも出来る!カメラレンズ修理の教科書Vol.007 Carl Zeiss Planar 50mm F1.4篇 Kindle版
自分のレンズは自分でメンテ!対象レンズ:Carl Zeiss Planar 50mm F1.4
本書は「Carl Zeiss Planar 50mm F1.4」のレンズメンテナンスをご自宅で行うための教科書です。レンズの修理、カメラレンズのカビ、オーバーホール、分解、清掃等にお悩みの方はぜひお読みください!本書に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼があった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容は写真を見ながらじっくり再現すれば、あなたが所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。自分のレンズと同機種なのかをまずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化になっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。また、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。このままですと、いずれ世界中にある昔のレンズを修理できる人がいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行し、教育分野に取り組んでいます。その一環として、本書『カメラレンズ修理の教科書』をシリーズ化してまいります。本書では、プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、プロが行うのと同じ様な結果が得られる構成になっております。ぜひ本書をお読みになり、プロフェッショナルのレンズメンテナンスをマスターしてください。
著者プロフィール
田斉健輔(タサイ・ケンスケ)
一般社団法人日本レンズ協会 代表理事。光学研究所 所長。1960年、生まれ。祖父がライカカメラのレンズ職人だった為、幼少の頃からカメラレンズに慣れ親しむ。東京学芸大学を中退後、自衛隊に入隊。その後、大手外食企業の東日本統括部長に就任。2004年、カメラレンズのメンテナンス・修理の事業を興す。2011年、一般社団法人日本レンズ協会設立。今後、カメラレンズ修理の専門学校設立を構想している。ミッションは、日本の古き良きカメラレンズを、良い状態で後世に残していくこと。