このレンズの製造年は1956年=昭和31年頃で、私が生まれる4年前までさかのぼる年代になります。夏休みの公園で、早朝流れている、ラジオ体操のテーマ曲もこの頃、日本ビクターからリリースされました。時々、同機種をお預かりする機会があるのですが、どの個体も外観はとても綺麗で、金属部の色褪せのない個体が多いです。絞り羽形状にも工夫がされていて、絞り羽根枚数は10枚で、円形というよりは星形に近い印象の形を、各指標数値で実現しています。
今から60年以上も前に製造されていた個体とは思えない輝きを、金属部位専用クリーニング溶剤で磨くと、ピカピカに蘇ります。使われていた素材と技術力の高さを垣間見る事ができます。この機種を整備する度に、世にあるオールドレンズを、修理の範疇で整備して、全国の写真愛好家の方が、安心して購入・使用・所有して頂く事・・・という当協会のミッションを再確認しております。それ程、長い時を経ても変わらない美しさが蘇るレンズの一種です。
二種類のErnst Leitz GmbH Summicron 5cm F2
今回お預かり致しました機種は、固定鏡胴モデルと呼ばれているタイプの機種になりますが、実は全く同じ銘柄表記で、沈胴式モデルも流通しています。私は写真家ではないので、実写に際しての、この二つのモデルの差は解らないのですが、レンズの構造はかなり違います。見た目も一目瞭然ですので、その区別は難しくないと思います。
このモデルも、固定鏡胴モデル同様、同じ年代に製造されました。勿論ドイツです。銘柄にある様に沈胴式レンズですので、鏡胴を縮めて持ち運ぶことができます。固定鏡胴モデルのSummicronとの大きな違いは、レンズの黄ばみです。この黄ばみはレンズの硝材に使われたトリウムが経年劣化で変色した為、と分析されています。
重量=材質の良さ
見た目以上にずっしりと重く、重量は 固定鏡胴モデル同様250グラムくらいあります。整備前後の簡易的な検査用カメラとして、Sonyのミラーレスを所有していますが、同規格形状のマウントアダプターとの合計重量が340グラムくらいですので、レンズ単体で250グラムもある、この二つのモデルがいかに重いか解ります。その重さは、使われている金属・硝子部位の質の高さの所以です。 発売当時の価格が、今の貨幣価値に換算すると、いかほどのなるのか解りませんが、この材質で本当に利益がでていたのか謎です。
レンズ検査ご依頼までの流れ(経緯)
今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。
いつもお世話になります。今回はErnst Leitz GmbH Summicron 5cm F2 固定鏡胴モデルをお願いします。
1.後玉のクモリの除去
2.絞りリングが固くF2からF4間はクリック感が無い
3.レンズ全体のゴミ、塵の除去
4.ヘリコイドがやや固い
できる範囲で構いませんので、宜しくお願い致します。
今回お預かり致しました機種
機種名 | Ernst Leitz GmbH Summicron 5cm F2 |
シリアルNO | 80788 |
付属品 | 前後キャップ、フイルター |
課題(所有者さん見解) | 全体的な検査 |
整備報告
順番に報告致します。
1、【後玉のクモリの除去】この曇りは、該当レンズ表面に付着していた雲状カビが主な原因でした。除去できておりますので、レンズ全体としての光学的なクリアー度はかなり復元しています。
2、【絞りリングが固く、特にF2からF4間はクリック感が無い】検査致しましたが。全部で7か所全ての調整溝にて、スプリングにより押し出されたベアリングが、その都度各箇所にて所定の位置に収まっています。トルク感がやや硬く、その感覚にムラは感じられますが、この年代の固体としましては、現状にて大きな問題ではないと判断致します。又、この課題を完全に解決するには、遜色のない同規格部位交換が必要になりますが、同時にこの部位の入手が非常に困難です。
3、【レンズ全体のゴミ、塵の除去】全てのレンズ表面に付着していた埃・カビ除去しました。只、付着していた点カビの一部が腐食カビで、除去後の腐食痕が若干ですが残ります。又、レンズが綺麗に復元した分、レンズ表面に元々付いていた傷も目立ちます。前玉表面には無数の擦れ傷があります。後玉表面外周には1か所ぶつけた様な点傷があります。この様な、この固体本来の姿が露わになる事もご了承下さい。
4、【ヘリコイドがやや固い】検査致しましたが、フォーカス調整機構トルク感は全く遜色ございません。反対に、この固体の正規のトルク感と比較しますと少し軽めの感覚です。全く問題ございませんので、安心してご使用ください。
尚、整備工程にて撮影しました写真、数枚UPしておきますので、併せてご参照下さい。光学系付着物の写真は、どれも処置前の状態写真になります。全体的にかなりいい状態に復元しましたので、未試用期間が長期化しない様にご留意頂き、今まで同様今後も大切にご所有下さい。
参考写真
この硝子部位の白濁が、レンズ全体が曇って目視された一番の原因でしたので、処置後はかなりクリアーな個体に復元していると思います。
納品に関しまして
※お願い・・・銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。確認後速やかに納品させて頂きます。
発送方法 | クロネコ着払い便 |
送り状NO | 別途メールにて報告 |
配送状況 | お荷物追跡システム |
ご決済に関しまして
整備費 | 28,000円(税込) |
クロネコさん送料 | ご依頼者様ご負担 |
決済方法 | 銀行振り込み |
合計 | 28,000円 |
お願い | ご決済後メールにてお知らせ下さい |
お振込み先銀行
・みずほ銀行
・五香支店
・口座名義 一般社団法人 日本レンズ協会
・普通口座
・口座番号 1715154
ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔