二種類のErnst Leitz GmbH Summicron 5cm F2
今回お預かり致しました機種は、固定鏡胴モデルと呼ばれているタイプの機種になりますが、実は全く同じ銘柄表記で、沈胴式モデルも流通しています。私は写真家ではないので、実写に際しての、この二つのモデルの差は解らないのですが、レンズの構造はかなり違います。見た目も一目瞭然ですので、その区別は難しくないと思います。
このモデルも、固定鏡胴モデル同様、同じ年代に製造されました。勿論ドイツです。銘柄にある様に沈胴式レンズですので、鏡胴を縮めて持ち運ぶことができます。固定鏡胴モデルのSummicronとの大きな違いは、レンズの黄ばみです。この黄ばみはレンズの硝材に使われたトリウムが経年劣化で変色した為、と分析されています。この様な観点からの個人的な意見ですが、この黄ばみを避けたいのであれば、これから新規入手の場合は、固定鏡胴モデルタイプの方がリスクはないと思います。
ブラウニング現象
沈胴式モデルの光学的な特徴として、ブラウニング現象が挙げられます。簡単に解説すると、硝子部位の一部が黄褐色になってしまうという症状を意味します。鏡胴内部凸レンズに、酸化トリウムを含む高性能な新種硝子=低分散高屈折率硝子を導入したのですが、その硝子部位のお蔭で、画像周辺部の解像力の向上と、グルグルボケの抑止、間接的には収差全体の補正力を改善させる波及効果が得られました。
その反面、酸化トリウムが放射するα線が、硝子素材を黄褐色に変色させるという先天性の病気であるブラウニング現象が進行する事が後に報告される様になり、現在では多くの製品機種でこの病気が進行し、ガラスに黄褐色の変色がみられる個体が散見される様になりました。こんな風に解説すると、この黄褐色がいかにもマイナス面に感じられてしまうのですが、私は、こういう個体を手にする度に、いい味のレンズだな・・・感じることの方が多いです。
私の個人的な見解
ブラウニング現象がもたらした、カラーバランスへの影響は、歳月を経ることで獲得できたオールドレンズならではの描写特性ともいえるもので、実際に使ってみると思いがけないシーンで素晴らしい演出効果を提供してくれると、懇意にしている写真家の方も、同じ様な感想を持っています。普通に写る無着色な透明硝子のレンズには決して真似のできない、味わい深い写真効果が得られるといいます。
しかも、修理の視点でこの現象を診断した時に、紫外線を一定時間照射しガラス材が温まってくると、電子正孔対からトラップ状態の電子を解放させることができます。そうすると、格子欠陥= 黄褐色は徐々にですが消滅しますから、 沈胴式モデルにみられるブラウニング現象は、紫外線の照射のみで除去できるので、そんなに気にする必要はないと捉えています。
簡単に言い換えると、該当硝子部位を日光浴させてあげるという事です。該当部位を鏡胴から取り出して、天気のいい日に自然光を当ててあげます。こういう整備をご希望の場合は、納期に少し時間がかかります。整備に出すまでもなく、もしかしたら理論上、頻繁に使っているレンズでしたら、このブラウニング現象は起きにくいとも言えそうです。
レンズ検査ご依頼までの流れ(経緯)
今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。
ご依頼者様から頂いたメール
いつもお世話になります。 同じタイプで違うモデルの沈胴型の時は大変お世話になりました。 今回はSummicron 5cm F2固定鏡胴モデルを入手しました。購入段階でわかっていた事なのですが、絞り羽が解放のまま動きません。又、実写してみた感じだと解像度がイマイチです。この二つの症状を改善して下さい。急ぎませんが、30,000円くらいでやってもらえると助かります。宜しくお願い申し上げます。
今回お預かり致しました機種
機種名 | Leitz Gmbh Wetzlar Summicron 5cm F2 固定鏡胴モデル |
シリアルNO | 1599509 |
付属品 | 前後キャップ |
課題(所有者さん見解) | 絞り羽根が開放のまま動かない。解像度がイマイチ |
ご希望予算 | 30,000円くらい |
整備報告
先ずは絞り羽ユニット機構に関してですが、フォーカス調整機構螺旋状部グリスが、汚れを巻きこみながら、絞り羽ユニット機構に流れ落ちてきて付着していたのが原因になります。その汚れを除去処置施しましたので、その駆動は復元しております。こういう症状になってしまう傾向の個体は今後も同じ様な症状に再度なってしまう事があります。その際は無償で整備致しますのでご安心下さい。
光学系付着物
全てのレンズ表面に付着していたカビ・埃除去しました。レンズ全体としての光学的なクリアー度はかなり復元しています。カビの種類は点カビ。菌糸状カビ・雲状カビでした。白濁して見えていたのは主に雲状カビの影響でした。この内の点カビが腐食カビで、除去後の腐食痕が一部ですがレンズ中央付近と外周に残ります。又、後玉表面に線傷があります。この点ご了承下さい。駆動系・外観共に状態の良いレンズです。以前お預かり致しました沈胴型モデル同様に、今後も大切にご所有下さい。
納品に関しまして
※お願い・・・銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。確認後速やかに納品させて頂きます。
発送方法 | クロネコ発払い便 |
送り状NO | 別途メールにて報告 |
配送状況 | お荷物追跡システム |
ご決済に関しまして
整備費 | 25,000円(税込) |
クロネコさん送料 | 神奈川県(一律)=930円(税込) |
決済方法 | 銀行振り込み |
合計 | 25,930円 |
お願い | ご決済後メールにてお知らせ下さい |
お振込み先銀行
・みずほ銀行
・五香支店
・口座名義 一般社団法人 日本レンズ協会
・普通口座
・口座番号 1715154
ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔