Nikon製の35mm F1.4モデルには、Nikon Ai NIKKOR 35mm F1.4Sというモデルも存在しますが、今回整備したレンズは、Nikon Ai NIKKOR 35mm F1.4というタイプのレンズになります。どちらのタイプも時々修理依頼がありますが、修理の分野から二つを比較しますと、その構造に大きな違いは感じられません。只、市場取引価格には大きな違いがある様で、Ai-Sモデルの方が高値で取引されている様です。
Nikon Ai NIKKOR 35mm F1.4S
この他にも、Nikon Nikkor 35mm F2という開放F値が異なるモデルも存在します。上記二つのモデルと比べると、ややその明るさに違いはありますが、このF2タイプの方が本数としては多く流通している様で、以前レンズ修理技術サポートの受講生徒さんからの依頼で、整備教科書に該当する詳しいコンテンツを作った経緯がございます。宜しければご参照下さい。
Nikon Nikkor 35mm F2
適正露出を実現する為のカメラの性能次第
写真は、基本的にはピントと露出の二つが大切な要素になります。私は写真家ではないので、撮影分野の解説はあまり詳しくはないのですが、ピントと適正露出という二つの要素は重要です。ピントは、フォーカス調整機構で調整しますが、露出=写真の明るさに関しては、絞り羽調整ダイヤルと、シャッタースピードの二つで調整します。
勿論、デジカメにAF機構付きのZoomレンズを組み合わせれば、ピントも露出も自動でカメラ側が設定してくれます。でも、フイルムカメラ時代は、撮影家自身が、自分の感性で設定してシャッターを押していたので、特に適正露出に関しては、メーカー側も時代の流れと共に、様々な機能をカメラ本体に追加していきました。
TTL測光とプログラムAE内蔵フイルムカメラ用交換レンズ
結論から言いますと、Aiモデルのレンズは、TTL測光仕様のフイルムカメラ用の交換レンズとして開発されました。一方、Ai-sモデルのレンズは、その後開発されたプログラムAE仕様のフイルムカメラ用の交換レンズとして開発・製造されました。
後で解説しますが、デジタルカメラで撮影する場合は、アダプターを介しますので、AiでもAi-sでもどちらでも構わないのですが、Nikonのフイルムカメラで、このレンズを使いたい場合は、AiモデルなのかAi-sモデルなのかを考えて購入する必要があります。ご自身のフイルムカメラのスペックを調べて検討する様にして下さい。
TTL測光とは
TTL測光とは、レンズを透過した光量をカメラ内蔵の入射光式露出計で受け、被写体の明るさを測る測光方式のことです。カメラの中に露出計が入っており、レンズを通じて入ってきた光を、カメラのボディ内にある測光センサーで測ります。ちなみに、TTLとはThrough The Lensの略になります。
リバーサルフィルムの撮影でも充分に信用できるレベルで、顕微鏡や望遠鏡にカメラをセットしても、正確な露出が得られます。なので、単体の露出計を持ち歩かなくとも良いのも大きな利点です。この様な趣旨でメーカーはこの様なフイルムカメラを設計・製造しました。
プログラムAEとは
一方、プログラムAEとは、デジタルカメラの撮影モードのひとつで、プログラムモードやPモードとも呼ばれます。被写体の明るさに合わせて適切な絞り値とシャッタースピードがあらかじめプログラムされているので、カメラが自動的に数値を設定してくれます。 撮影に関しての知識が何もなくてもきれいな写真が撮れる便利な撮影モードになります。
カメラ別によるAi若しくはAi-sモデルレンズの選択基準
今まで解説してきた基本的な知識をベースに、Nikon Nikkor 35mm F1.4というレンズを購入する際に役立てて欲しい知識と致しましては、どんなカメラで使いたいのか?という点に関してもう少し詳しく解説致します。Nikonのフイルムカメラは、Nikomat、Nikomat EL、ニコンEM等々、沢山の機種があるのですが、その中でも特に有名なNikon Fシリーズを例にとってお話しします。
Nikon Fの場合
Nikonがまだ日本光学工業という名前だった頃に誕生した名機で、レンジファインダー式カメラが主流だった当時に、一眼レフカメラという新風を巻き起こしたレンズとして有名な機種です。このフイルムカメラのスペックは以下の図の様になります。
形式 | 35mmフィルム一眼レフカメラ |
シャッター | ・B、1秒〜1/1000秒 ・機械式 ・横走りチタン幕フォーカルプレーンシャッター(最初期型は布幕) |
露出計 | ・Nikon F=ナシ ・Nikon Fフォトミック=外光式 ・Nikon FフォトミックT=TTL平均測光 ・Nikon FフォトミックTN、FTN=TTL中央重点測光 |
プログラムAE | ナシ |
ファインダー | ・交換式 ・視野率100% ・倍率約0.8倍 |
レンズマウント | ニコンFマウント |
対応レンズ | 絞り環とカニ爪付きのニッコールレンズ |
使用電池 | フォトミックファインダーのみ水銀電池MR-9×2使用 |
発売年 | 1959年 |
露出計の欄を見て頂ければわかると思いますが、Nikon Fでは、その露出計が内蔵されていませんので、Ai若しくはAi-sモデルレンズの機能は、どちらも発揮できないという事になります。Nikon FフォトミックT以降のモデルからは、TTL測光機能が組み込まれていますので、Aiタイプのレンズが最適です。
Ai-sモデルでもカメラの機能は発揮できますが、そもそもカメラ側にプログラムAE機能が内蔵されていませんので、Ai-sモデルである必要性がありません。なので結論と致しましては、このフイルムカメラで撮影するケースでは、レンズはNikon Ai Nikkor 35mm F1.4が最適という事になります。
Nikon F3の場合
完全機械式が主流であった当時、Nikonはフラッグシップ機としては、F3から電子制御式シャッターやAE=自動露出等を一部電子化した事で、カメラ業界に衝撃を走らせる事になった先駆け的存在のモデルになります。この機種以降はプログラムAE機能が搭載されていますので、このフイルムカメラ以降のモデルで、Nikon Nikkor 35mm F1.4というレンズを使いたいのであれば、カメラの機能を活かす為にも、レンズはNikon Ai-s Nikkor 35mm F1.4が最適という事になります。この様に、フイルムカメラで撮影したいシーンの場合は、カメラ本体の機能を確認して、AiがいいのかAi-sを選ぶべきなのかの判断基準にして頂けますと幸いでございます。
デジカメ撮影の場合はAiとAi-sでもどちらでもOK
修理の世界からこの二つのモデルを比較すると、構造的には大きな差はないのですが、撮影するフイルムカメラの仕様に応じて、AiとAi-sという二つのタイプのレンズが開発されました。なので、マウントアダプターを使ってこのオールドレンズを使って、デジタルカメラで撮影する場合は、AiでもAi-sでもどちらのモデルでも遜色はないという事になります。どちらのモデルでも関係ないという事は、比較的安価なNikon Ai Nikkor 35mm F1.4タイプのレンズで、なるべく状態の良いレンズを入手するのが最善と判断致します。
今回整備したレンズ詳細
機種名 | Nikon Ai NIKKOR 35mm F1.4 |
シリアルNO | 400252 |
付属品 | 前後キャップ |
整備内容 | 全体的な検査 |
整備目的 | 整備後にECモールサイトで販売 |
レンズ鏡胴外観
金属部一部に擦れ傷がありますが、大きな凹み等なく、全体的には綺麗な外観だと思います。まだまだ撮影の友として活躍してくれるレンズです。詳しい外観写真は出品ページ掲載写真ご参照下さい。
絞り羽ユニット機構
最大絞り値指標値から開放指標値まで、スプリングがベアリングを押し出し、それぞれのプレート溝にはまって駆動しています。そのトルク感はやや軽いと感じます。
フォーカス調整機構
至近距離指標値から無限遠指標値まで全領域にてスムースに駆動しています。そのトルク感は、絞り羽調整ダイヤル同様やや軽めです。
カビ等光学系付着物
整備段階で、目立った埃・カビ等付着物はありません。スカッと抜ける様な眩しいレンズです。とは言いましても、製造から何十年も経過している中古商品ですので、神経質な方の入札はご遠慮下さい。
マウントアダプター形状規格に関しまして
NIkon以外のデジタルカメラに装着して撮影する場合は、マウントアダプターが必要になります。ご愛用のカメラとこのレンズの規格に合ったマウントアダプターをご使用下さい。
Nikon Ai Nikkor 35mm F1.4レンズで撮影した風景写真
私は写真家ではありませんので、実写に関しましては何も言及できませんが、整備後このレンズで撮影したいくつかの写真掲載させて頂きます。このレンズの開放F値=1.4を生かして、全て開放で撮影してみました。
オールドレンズで撮影した身近な自然風景写真館
他のオールドレンズで撮影した写真集も公開しております。宜しければご参照下さい。
撮影場所は、当協会所在地から自転車で10分くらいで行ける、松戸市古民家文化財に登録されている旧斎藤邸敷地内で撮影しています。この空間は個人的にもとてもお気に入りで、まるで時が止まってしまった様な、静かでとても落ち着ける空間です。
お弁当を持って、3時間位撮影していると何だか元気が湧いてきます。きっと、あなたの傍にも心を癒してくれる身近な自然風景があると思います。松戸市内では数少ない光景が広がっています。詳細は、松戸市教育委員会広報公式サイトをご閲覧下さい。
販売後の無償整備補償に関しまして
ご希望であれば、このレンズを購入して頂いた方には、販売後の無償整備保証を付けております。通常使用下において発生した支障に関してでしたら、所有者さんの変更がない限り、いつでも無償にて整備致します。詳細は、出品ページ解説をご参照下さい。
出品ECモールサイト通信欄て無償整備保証希望とご記入下さい。この制度をご希望の場合は、レンズ本体と一緒に検査証を同梱致しますので、無償整備保証制度適用時にお使い下さい。その場合、往復の送料はご負担お願い申し上げます。
ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導お願い申し上げます。