レンズ修理工程コンテンツを公開する主旨
日本中のレンズのメンテを日々させて頂いておりますが、本当に困ってから修理依頼をなさる方々が多いのが実情です。レンズは撮影の為の道具の一種です。本来は、適切で定期的なメンテナンスが必要なのですが、何か問題が起きてから行動に移す方が沢山いらっしゃいます。
ご自身で所有するレンズが、ある程度ご自宅にて自分でメンテナンスできれば、それが一番理想的ではないかと、日々人様のレンズに対峙しながら、長い期間感じておりました。
パソコン等のツールも行き渡り、全てのやり取りがWEB上で可能になりました。又、動画の収録・再生も個人レベルで可能な時代になりました。我々修理のプロも、その経験・技術をオープンにして、皆様のお役に立てる方法を開示するべき時代が来たのだと思っております。
勿論、レンズの修理を従来通り専門業者に委ねる流れも、丁寧な処置前診断、価格の透明性、修理内容の開示等よりお客様が安心してレンズを委ねられる様な環境の改善は、引き続き行ってまいります。この教科書の配信を通じて、写真愛好家の方々の撮影ライフの一助となります事を願って止みません。
Special 6×8 CWeichseというレンズ
時々ですが、大判レンズの修理依頼を受ける事もあります。構造的にもシンプルな機種ですから、是非ご自宅で綺麗な状態を維持して欲しい代表的なレンズになります。レンズ自体が非常に丈夫な造りですから、問題はカビ等の光学系付着物だけです。年代的にも各関連部位が固く固着していて思う様にレンズ鏡胴内部にアクセスできないケースも多いのですが、先ずは単純な構造を理解して、整備手順を習得していって下さい。
第Ⅰ部
第一部ではフロント側からの検査・アクセス手順について解説します。
乾板からレンズユニットを外します
・機種の種類によって様々な構造をしています。
・ご自身の機種に沿ってレンズユニットを外して下さい。
・構造は至ってシンプルですので良く観察します。
・木ネジ等が使用されている場合は紛失しない様に保管します。
![乾板からレンズユニットを外します](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/001-9.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
レンズユニットが取り外せました
・先ず、フロント側からの検査・アクセス手順を解説します。
・リヤ側からも同様ですが、この機種は治具は一切使用しません。
・両手だけで検査・アクセスできます。
・もし、固着している場合は個別にお問い合わせ下さい。
![レンズユニットが取り外せました](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/002-8.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
フード(前玉保護カバー)を外します
・両手で反時計周りに回します。
・単純な工程ですが、向きと順番が大切です。
・平らで清潔な作業台上で行って下さい。
![フード(前玉保護カバー)を外します](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/003-8.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
現在の作業台上の風景
・現在作業台はこの様な風景になっています。
・今回の個体はとても簡単な部類に入ります。
・向きと順番を必ず意識して作業して下さい。
![現在の作業台上の風景](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/004-9.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
次に、前玉を外します
・厚みのある一枚のレンズが組み込まれています。
・この状態で表・裏面を洗浄します。
・これ以上分解する必要はありません。
・もし、【コバ剥がれ】が進行している場合は分解します。
・個別にお問い合わせ下さい。
![前玉を外します](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/006-9.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
これが前玉です
・このガラス玉の表面と裏面をクリーニングします。
・洗浄に使用する治具・溶剤は次に解説します。
・入手先もご参照下さい。
![前玉](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/024-2.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
クリーニング専用ペーパー
・レンズの洗浄には専用ペーパーを使って下さい。
・推奨は【dusperΣ】です。
・チョット高価ですが是非【ダスパー】を購入して下さい。
・一枚一枚が大きいので四分の一にカットして使って下さい。
・同じくカメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:1,500円前後
・ヨドバシカメラ
![ダスパー](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/07/1fb25ae09a226d84d24ee4a28f787869-1.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
![かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/07/b78684833a92cb641a12f666c7b70066.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
四分の一サイズがベストです
・もしかしたら小さいサイズの規格商品が市販されているかもしれません。
・ハサミでカットして下さい。
・1クリーニング=1枚を使用します。
・同じペーパーを何度も使い回ししない事。
・使用後のペーパーは鏡胴外観等の拭き取りに使います。
![四分の一サイズがベストです](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/07/82539f4fced9d7f24b925204b0b84660.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます
・上手く巻きつけができない時はセロテープを使ってださい。
・その際はなるべく根本にテープを巻きます。
・金属製のピンセットは使用禁止です。
・レンズを傷付ける恐れがあります。
![カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/07/df2ccf14a762de44a2cb2b119eaa527a.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
ハンドラップの先端をプッシュします
・必要分が出てきます。
・高価なのでほんの少しで充分です。
・沢山使えば綺麗になるという訳ではありません。
![ハンドラップの先端をプッシュします](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/07/aadce216c5cdc655bcccc73faaef7904.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
ハンドラップとレンズ専用クリーニング溶剤
・当協会ではカビが除去しやすく、拭きムラが残り難い専用溶剤を使っています。
・一般の方はカメラ量販店等で扱っているレンズクリーニング溶剤で十分です。
・それでもかなり高価ですから、無駄なく使って下さい。
・沢山使用すればよいと言うものでもありません。
・カメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:3,000円前後(300ml)
・ヨドバシカメラ
・保管容器のお勧めは【ハンドラップ】です。
・蒸発も防止できて必要分をプッシュして使えます。
・片手で必要量が出てくるのでとても重宝します。
・入手先:東急ハンズ等
・価格目安:2,000円前後(材質・サイズによります)
・東急ハンズ
![ハンドラップ](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/07/bb07ec151856f7ea9bb2edf1ea10de0e.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
前玉の裏面からクリーニングします
・レンズ中央から円を描く様に外周に向かいます。
・最初は難しく感じるかもしれません。
・拭きムラが残ったり、上手くカビが除去できないと思います。
・段々慣れてくると上手になります。
![前玉の裏面からクリーニング](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/007-8.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
次に前玉の表面をクリーニングします
・要領は一緒です。
・専用紙の使い回しは厳禁です。
・少し勿体ない気もしますが使いきりです。
・同じ専用紙を何度も使うと汚れを逆に付けてしまいます。
![次に前玉の表面をクリーニングします](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/010-8.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
洗浄が終わりましたら鏡胴に組み込みます
・続けての作業は禁止です。
・ここで一度元の状態に戻して下さい。
・リヤ側に移る前に必ず元の状態に組直します。
![洗浄が終わりましたら鏡胴に組み込みます](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/025-2.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
フード(前玉保護カバー)も再組立てします
・今回の個体は簡単な部類に入ります。
・今後少し難しい機種に携わる様になると再組立ての重要性が解ります。
・これで半分の工程が終了しました。
![フード(前玉保護カバー)も再組立てします](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/011-6.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
第Ⅱ部
第Ⅱ部ではリヤ側からの検査・アクセス手順について解説します。
最初にレンズ鏡胴から乾板接合プレートを外します
・特に治具は必要ありません。
・両手で反時計回りに回転させて下さい。
・ここでも向きに注意して下さい。
![最初にレンズ鏡胴から乾板接合プレートを外します](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/026-2.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
現在の作業台上の風景
・現在作業台はこの様な風景になっています。
・今回の個体はとても簡単な部類に入ります。
・向きと順番を必ず意識して作業して下さい。
![現在の作業台上の風景](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/012-7.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
次に、後ろ玉ユニットを外します
・この様に鏡胴本体に組み込まれています。
・この処置も特に治具等は必要ありません。
・両手で反時計周りに回転させます。
![後ろ玉ユニットを外します](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/013-6.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
後ろ玉ユニットが取り外せました
・ここでも向きに注意して下さい。
・次に、このレンズの表面・裏面を洗浄します。
・使用する治具・溶剤は第一部と同様です。
![後ろ玉ユニットが取り外せました](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/016-4.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
現在の作業台上の風景
・現在はこの様な風景になっています。
・何度も繰り返しますが向きと順番が大切です。
・簡単な個体からこの習慣を身に付けて下さい。
![現在の作業台上の風景](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/017-5.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
後ろ玉の裏面を洗浄します
・レンズ中央から円を描く様に外周に向かいます。
・最初は難しく感じるかもしれません。
・拭きムラが残ったり、上手くカビが除去できないと思います。
・段々慣れてくると上手になります。
![後ろ玉の裏面を洗浄](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/019-3.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
次に後ろ玉の表面を洗浄します
・要領は一緒です。
・専用紙の使い回しは厳禁です。
・少し勿体ない気もしますが使いきりです。
・同じ専用紙を何度も使うと汚れを逆に付けてしまいます。
![後ろ玉の表面を洗浄](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/020-3.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
洗浄が終わりましたら鏡胴に組み込みます
・綺麗に復元した達成感も味わって下さい。
・螺旋状部の最後までキチット再組立てして下さい。
![洗浄が終わりましたら鏡胴に組み込みます](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/021-3.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
乾板接合プレートも組み込みます
・これで全ての処置が終了です。
・お疲れ様でした。
・この螺旋状部も最後までキチット再組立てして下さい。
![乾板接合プレートも組み込みます](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/022-2.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
付属品等も確認して下さい
・折角綺麗に復元したレンズです。
・今後の保管等、十分に留意して下さい。
・長期間の放置が一番よくありません。
・時々手に取っていじってあげて下さい。
![付属品等も確認](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/08/023-2.jpg?resize=720%2C482&ssl=1)
Amazon Kindle 電子書籍
初心者でも出来る!カメラレンズ修理の教科書Vol.020 Special 6×8 CWeichse篇 Kindle版
自分のレンズは自分でメンテ! 本書はSpecial 6×8 CWeichse篇 Kindle版のレンズメンテナンスをご自宅で行うための教科書です。レンズの修理、カメラレンズのカビ、オーバーホール、分解、清掃等にお悩みの方はぜひお読みください!本書に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼があった実際の個体を使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容は写真を見ながらじっくり再現すれば、あなたが所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。自分のレンズと同機種なのかをまずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化になっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。また、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。このままですと、いずれ世界中にある昔のレンズを修理できる人がいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行し、教育分野に取り組んでいます。その一環として、本書『カメラレンズ修理の教科書』をシリーズ化してまいります。本書では、プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、プロが行うのと同じ様な結果が得られる構成になっております。ぜひ本書をお読みになり、ご自宅でできるレンズメンテナンスをマスターしてください。
著者プロフィール
![](https://i0.wp.com/japanlensassociation.com/wp-content/uploads/2020/07/s_tasai.png?resize=216%2C315&ssl=1)
田斉健輔(タサイ・ケンスケ)
一般社団法人日本レンズ協会代表理事。光学研究所所長。
1960年、生まれ。祖父がライカカメラのレンズ職人だった為、幼少の頃からカメラレンズに慣れ親しむ。東京学芸大学を中退後、自衛隊に入隊。その後、大手外食企業の東日本統括部長に就任。2004年、カメラレンズのメンテナンス・修理の事業を興す。2011年、一般社団法人日本レンズ協会設立。今後、カメラレンズ修理の専門学校設立を構想している。ミッションは、日本の古き良きカメラレンズを、良い状態で後世に残していくこと。