Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 修理報告

Carl Zeiss Planar 85mm F1.4

最近の修理依頼内容で、駆動系に関するお問い合わせや修理ご依頼が多いな!・・・と感じています。今回のご依頼内容も絞り羽の支障に関するご依頼でした。Carl Zeiss Planar 85mm F1.4という機種に限らず、絞り羽フイルム本体が絞り羽ユニットBOXに収納された状態で固着してしまっている個体が散見されます。何故絞り羽ユニット機構に支障が発生するのか?他の記事でも折に触れ解説してきましたが、今回も原因について少し詳しく解説しておきたいと思います。

レンズの基本的な構造

私は撮影の専門家ではありませんが、一般的に写真を撮る際に最低限押えておかなければいけないのがピントと露出です。ピントとは要するに何の写真を撮ったのか?という被写体の主役に焦点を当てるという行為で、この為に必要な機構がフォーカス調整機構になります。一方、露出も大切で簡単に言うと写真の明るさの事です。露出という単語が共通言語として使われる事が多いのですが、要は明るさ(暗さ)の事を指します。この為に必要な機構が絞り羽ユニット機構とシャッタースピード調整機構になります。なので、写真を撮る際には、ピントを合わせて明るさを調整する所作が必要になります。ピントを自動で合わせてくれるカメラもありますし、自分の目で確認するカメラもあります。明るさは絞り羽ユニット機構とシャッタースピード調整機構を駆使して調整します。

絞り羽ユニット機構の役割

この写真の明るさの調整の為の機構が絞り羽ユニット機構です。通常は5枚から12枚くらいのフィルムが閉じたり開いたりして円の大きさを調整します。絞り羽フイルムが全部ユニットBOXに収納された状態を解放と呼び、その機種で一番明るい写真が撮れます。勿論シャッタースピードとの関係も重要ですが、シャッタースピードは今回の解説は省きます。絞り羽フイルムが一番閉じた状態の時は暗い写真になります。絞り羽根は名前の通り羽根のような形をした板=フイルムを何枚も重ね合わせ、その隙間を調整する事でカメラセンサー(素子)が受け取る光量を調整し、大きくボケさせるか全体的にシャープな画を撮るかを設定できます。羽根枚数は同じメーカーの物でもレンズによって枚数が異なります。枚数が違うと何が変わるのかというと、基本的には枚数が多い方が綺麗なボケ方をしますが、円形絞りがスタンダードとなった現代では枚数によってボケ方がそう大きく変わるところはないのかと個人的には思います。もう一つ、絞り羽根の枚数によって大きく変わる部分は光芒(光条)です。

絞り羽の形状

絞り羽の形状もいくつかの種類があります。最新の機種はどの構成ダイヤル位置でも限りなく円形を維持できる様に工夫されていますが、オールドレンズに関してはその時々で様々な形状の個体があるのが特徴です。今回お預かりした機種は菊花型形状お呼ばれていて、閉じると菊の花びらの様な形をしています。

Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 絞り羽フイルム
Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 絞り羽フイルム

中心円は常に8角形の形状を維持する構造になっています。修理の分野からの見解になりますが、この形状の個体は固着しやすい傾向があります。一枚一枚の板=フイルムが接する面埼が大きく何かの拍子で絞り羽ユニットBOXに収納された状態で固着してしまいます。ちなみにワザとこの形状を星形に作っている個体もあります。

Industar 50mm F2.8 M42マウント 星形
Industar 50mm F2.8 M42マウント 星形

こういう形状のレンズで撮影すると星形のボケ玉写真が撮れるそうですが、こういう嗜好が好きな写真家の方もいらっしゃいます。

Industar 50mm F2.8 M42マウント 星形 撮影
Industar 50mm F2.8 M42マウント 星形 撮影

話が少しそれてしまいましたが、実写に際しての特徴も絞り羽の形状によって影響を受けますが、修理の世界からの所見としましては、なるべく固着し難いレンズの方が管理は簡単だという事です。

フォーカス調整機構螺旋状部

ピントを合わせる為に必要な機構がフォーカス調整機構だという事は前述しましたが、この機構の螺旋状部位は大体アルミ素材と真鍮素材の金属が使われています。

Carl Zeiss Distagon 35mm F1.4
Carl Zeiss Distagon 35mm F1.4 螺旋状部位

このアルミ素材と真鍮素材の金属は金属の中ではやわらかい素材に属し、摩耗防止と適度なトルク感を醸し出す為にグリスと呼ばれる油が塗られています。簡単にいうと、フォーカス調整機構は湿った状態でレンズ鏡胴内部に存在しています。一方絞り羽ユニット機構は完全に乾いた状態を好みます。この相反した状態を好む機構がレンズ鏡胴内部に組み込まれているという事です。

グリスが流れ落ちてくる謎

上記グリスが絞り羽ユニット機構に流れ落ちてくる個体が時々あります。全く同機種でもこの様な症状にならない個体もあります。何故流れおちてくる個体があり、そうならない個体もsるのかに関しては今のところ科学的な理由は判明していませんが、使用されていたグリスによるものなのか?微妙な個体の構造によるものなのか?保管時の向きによるものなのか?特定できません。もしもこの事が原因で絞り羽が固着している場合は、この油分を含む汚れを除去する事で駆動が復元するケースはあります。今回お預かりしましたCarl Zeiss Planar 85mm F1.4に関しましてはこの処置にて課題は解決しました。

レンズ保管時の向き

絞り羽ユニット機構の固着を防ぐ為に、一般的にはあまり周知されていない事なのですが、保管時のレンズの向きにも配慮してもらう必要があります。Carl Zeiss Planar 85mm F1.4という機種の場合は下記写真の様な向きでの保管が最善です。

Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 保管時の向き
Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 保管時の向き

フォーカス調整機構螺旋状部位よりも絞り羽ユニット機構が上側=天側に位置する向きがベストです。逆の向きで保管した状態で未試用期間が長期化するのが一番いけません。あまり神経質になる必要はありませんが、今後の所有に際して参考にして下さい。

レンズ検査ご依頼までの流れ(経緯)

今回のご依頼はお電話にて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。

メールにてのお問い合わせ

ヤシコン Planar T*85mm F1.4の絞り羽が作動いたしません。修理をお願いいたします。さっそくの返信ありがとうございます。個体にもいろいろあるのですね。了解いたしました。
このまま修理をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?また大体の期間はどのくらいになりますか?よろしくお願いいたします。

頂きましたメールへのお返事内容

2021年3月5日(金)
K様、お問い合わせありがとうございます。一般的なレンズはレンズ鏡胴内部に二つの駆動系部位が組み込まれています。フォーカス調整機構螺旋状部のグリスが絞り羽ユニット機構に汚れを巻き込んで付着してしまう事が原因の場合は汚れを除去する事で課題が解決するケースはあります。全く同じ機種でもこういう傾向がある個体とそうでない個体に分類されます。その場合、そういう傾向がある個体は動作が復元後、再度類似の症状になってしまう危惧を孕んでおります。その際は、ご自宅でできる簡易的な整備をして頂く事で、状態が維持できます。その方法はこちらで動画を収録して納品時にお伝え致しますが、所有者さんと二人三脚で状態を維持する所作にご協力して頂くケースもございます。この様な個体特有の背景もご考慮頂きまして業者さんの選定等々充分にご検討下さい。

2021年3月6日(土)
K様、おはようございます。当協会で宜しければK様のご都合の宜しい時にこちらまでご送付下さい。過去の修理記録台帳を紐解きますと同機種にて18,000円(税込)くらいかかっております。納期に関しましては概ね一週間程お時間を頂いております。宜しければご参照下さい。

Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 付属品
Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 付属品
機種名Carl Zeiss Planar 85mm F1.4
シリアルNO7767931
付属品前後キャップ、フイルター、アダプター
課題(所有者さん見解)絞り羽根が開放のまま絞りリングを回しても動きません。

修理報告

絞り羽フイルム=板が解放状態のまま収納BOX内で固着していた状態の原因は、フォーカス調整機構関連螺旋状部に塗られているグリスが流れ落ちてきた際に汚れを巻き込んで付着していたのが主な原因でした。この汚れを除去しましたので、絞り羽ユニット機構本来の機能は復元しております。上記に様々な関連コンテンツ解説致しましたので、ご参照頂きまして今後の所有と保管に際してご留意頂けますと幸いでございます。外観及びフォーカス調整機構及び光学系クリアー度共にとても状態の良いレンズです。今まで同様大切にご所有下さい。尚、今回の様な症状になってしまう個体はこちらでの整備後も同じ様な症状になってしまう事が危惧されます。その際は、Zoom等のアプリでリモートにてご自宅でできる簡易的な処置方法(手順)お伝え致しますので、メールにてお気軽にお問い合わせ下さい。整備途中で撮影しました写真何枚かUPしておきますので併せてご参照下さい。同時に、今回の修理は駆動系の処置ですので、復元した状態を動画でも撮影しました。お時間ございます時にご閲覧・確認お願い致します。

参考写真

Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 絞り時
Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 絞り時
Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 解放時
Carl Zeiss Planar 85mm F1.4 解放時

解説補足動画

個人的な趣味で水の研究をしております。飼育水槽から観賞水槽に水をくみ上げるポンプの音等が収録されてしまい、お聞き苦しい点もございますが、ご了承お願い申し上げます。

納品に関しまして

※代引きにて納品させて頂きます。

発送方法クロネコ・コレクト便(代引き)
送り状NO3794-6868-0334
配送状況お荷物追跡システム

ご決済に関しまして

整備費18,000円(税込)
代引き手数料440円(税込)
送料800円(税込)
合計19,240円
決済方法クロネコ・コレクト便(代引き)

クロネココレクトシステム

ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔

kensuke tasai と申します。 光学機器の修理を主たる業務としております。 関連コンテンツも並行して配信させて頂いておりますので、リクエストございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。