修理行程コンテンツを公開する主旨
プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、同じ様な結果が得られる構成になっております。
日本中のレンズのメンテを日々させて頂いておりますが、本当に困ってから修理依頼をなさる方々が多いのが実情です。レンズは撮影の為の道具の一種です。本来は、適切で定期的なメンテナンスが必要なのですが、何か問題が起きてから行動に移す方が沢山いらっしゃいます。
ご自身で所有するレンズが、ある程度ご自宅にて自分でメンテナンスできれば、それが一番理想的ではないかと、日々人様のレンズに対峙しながら、長い期間感じておりました。
パソコン等のツールも行き渡り、全てのやり取りがWEB上で可能になりました。又、動画の収録・再生も個人レベルで可能な時代になりました。我々修理のプロも、その経験・技術をオープンにして、皆様のお役に立てる方法を開示するべき時代が来たのだと思っております。
勿論、レンズの修理を従来通り専門業者に委ねる流れも、丁寧な処置前診断、価格の透明性、修理内容の開示等よりお客様が安心してレンズを委ねられる様な環境の改善は、引き続き行ってまいります。この教科書の配信を通じて、写真愛好家の方々の撮影ライフの一助となります事を願って止みません。
Pentax-F 1.7×AF Adapterについて
AレンズなどのマニュアルフォーカスレンズとMZシリーズなどのオートフォーカス機能を持ったカメラボディの中間に装着し、オートフォーカスを可能にするアダプターです。使用できるレンズは原則としてF2.8より明るいレンズ。主レンズの焦点距離は1.7倍、明るさは約1.5段暗くなります。絞り優先、シャッター優先などの自動露出は使用できますが、プログラム自動露出はノーマルプログラムモードのみとなります。
第Ⅰ部
第Ⅰ部では鏡胴本体からレンズユニットを取り外すまでの工程を解説致します
レンズ押え化粧リングを外す為のゴム治具
・市販の物で十分です。
・コンバーター本体をリヤ側を上向きにします。
・コンバーターに組み込まれている群レンズの径に合ったものを使う事。
・コンバーター用に一つあると重宝します。
・入手先:お近くのホームセンター等
・価格目安:100円前後
・ユニデイー
このゴム治具をこの様に化粧リングに当てます
・殆どのレンズが半時計回りで外れます。
・フォーカス調整螺旋状部は逆回転方向構造です。
・押しながら回すのがポイントです。
・個体によってはリングが固着していますが、その場合はあまり無理をしません。
・固着を緩和する溶剤を使いますが、個別にお問い合わせ下さい。
・化粧リングには180°相対してカニ目の切込みがありますが金属の治具はつかいません。
決して金属の治具は使わないで下さい
・例えば写真の様なレンチ類です。
・力が入り過ぎて万が一の場合レンズが壊れます。
・又、壊れないまでも傷つけてしまう可能性があります。
群レンズユニットを鏡胴本体から外します
・前述したゴム治具で簡単に外れます。
・慌てずにゆっくり作業しましょう。
これが群レンズユニットです
・この群レンズユニットの中にレンズ×4枚と、リング×2枚が組み込まれています。
・その事を頭に入れながら作業します。
鏡胴は空洞になります
・再組立時まで、空の鏡胴は使いません。
・群レンズだけに集中して下さい。
群レンズユニットを外すと作業台ではこの様な風景になります
・次の第二部ではユニット内部に組み込まれているレンズ×4枚を外します。
・同時にレンズ押さえリング×2枚も取り外す事になります。
・ガラス玉ですので綺麗なクッション性のある布素材を作業台に用意してください。
・空の鏡胴は使いませんので別の場所に保管します。
群レンズユニットの向きが不安の場合はマーキングします
・市販のシールを使って下さい。
・粘着面は再組立時にクリーニングします。
・慣れないうちはマーキングを推奨します。
第Ⅱ部
第二部では取り外したレンズユニットの処置工程を解説致します
それではレンズユニットを順番に検査・分解していきます
・ポイントは外した順番を覚えておくこと。
・その為に自分で解る様に作業台上の配置にルール決めをします。
・もう一つのポイントは外したレンズの表・裏の向きです。
・表裏の形状が似てるレンズにはマーキングします。
・慣れないうちはすべてのレンズにマーキングして下さい。
最初のレンズとそのレンズの土台のリングを外します
・最初のレンズは表裏の形状が似ています。
・必ずシールを貼って下さい。
・土台リングの向きも覚えておいて下さい。
最初のレンズ【F1】の状態を検査します
・レンズ外周を指で挟んで光源にかざします。
・特に問題がなければOKです。
・カビ当の付着があれば除去処置を施します。
いよいよレンズをクリーニングします
・汚れが酷い場合は洗剤を使って下さい。
・お勧めは芳香剤・手荒れ防止剤が一切含まれていない洗剤です。
・当協会では写真の様な液体洗濯用洗剤を使用しています。
・原液を60倍に薄めるのがポイントです。
・入手先:お近くのドラッグストアー・大手スーパー等。
・価格目安:1,000円前後
あらかじめ希釈した溶液を小瓶に小分けしておくと便利です
・この時使う瓶はガラス素材の物を使って下さい。
・この洗剤の他にも多用しますので、溶けやすいプラ素材は避けて下さい。
・内容に応じて複数個あると重宝します。
・入手先:東急ハンズ等。
・価格目安:300円前後(サイズ・素材によります)
・東急ハンズ
その後、洗剤分を除去する為に蒸留水で洗浄します
・水道水でも構わないとは思いますがやはり蒸留水がベターです。
・拭きムラが付きにくくなります。
・同じようにガラス素材の小分け用瓶があると便利です。
・この瓶の種類が増えてきた時は是非シールで名前を付けて下さい。
その後レンズ専用クリーニング溶剤にて洗浄します
・当協会ではカビが除去しやすく、拭きムラが残り難い専用溶剤を使っています。
・一般の方はカメラ量販店等で扱っているレンズクリーニング溶剤で十分です。
・それでもかなり高価ですから、無駄なく使って下さい。
・沢山使用すればよいと言うものでもありません。
・保管容器のお勧めは【ハンドラップ】です。
・蒸発も防止できて必要分をプッシュして使えます。
・片手で必要量が出てくるのでとても重宝します。
・入手先:東急ハンズ等
・価格目安:2,000円前後(材質・サイズによります)
・東急ハンズ
次は拭き取る紙です
・チョット高価ですが是非【ダスパー】を購入して下さい。
・一枚一枚が大きいので四分の一にカットして使って下さい。
・同じくカメラ量販店のメンテナンスコーナーで扱っています。
・入手先:カメラ量販店
・価格目安:1,500円前後
・ヨドバシカメラ
かなり大きいので一枚全部を使うのは勿体ないです
・ポイントはレンズの中央から外側に向かって拭きます。
・円を描くようになるべく均等な力で拭きます。
・あまりもたもたしないでササット拭き取るのがポイントです。
四分の一サイズがベストです
・もしかしたら小さいサイズの規格商品が市販されているかもしれません。
・ハサミでカットして下さい。
・1クリーニング=1枚を使用します。
・同じペーパーを何度も使い回ししない事。
・使用後のペーパーは鏡胴外観等の拭き取りに使います。
カットしたダスパーを木製のトングに巻き付けます
・上手く巻きつけができない時はセロテープを使ってださい。
・その際はなるべく根本にテープを巻きます。
・金属製のピンセットは使用禁止です。
・レンズを傷付ける恐れがあります。
先ほど説明したハンドラップの先端をプッシュします
・必要分が出てきます。
・高価なのでほんの少しで充分です。
・沢山使えば綺麗になるという訳ではありません。
いよいよレンズのクリーニングです
・ポイントはレンズ中央から外側に向かって拭きとります
・ササット行って下さい
・慣れないうちはどうしても拭きムラが残ります
・何回もチャレンジすればそのうち腕があがり上手になっていきます
更に検査を進めていきますが、外した順番がとても大事になってきます
・もしお持ちの個体がこの段階の分解で課題が解決する場合はこれ以上分解する必要性はありません。
・個体の状態に合わせて、何をどこまで解決したいのか考えて下さい。
・課題解決の為の原因が他のガラス玉表面にある場合は更に進みます。
ここまでの検査工程にてこの様な状況になります
・だんだんレンズの枚数が増えていきます。
・表・裏の区別と取り出した順番を分かり易く並べて下さい。
・特にルールはありませんが、自分で解る様に工夫して下さい。
・繰り返しますが、順番と表・裏の区別重要です。
群レンズユニットを完全に分解します
・これ以上は分解できるレンズはありません。
・上記しました様にレンズ×4枚、リング×2枚となります。
・写真の様に取り出したレンズがだんだん増えてきます。
・ポイントはその順番と表・裏の管理です。
・慌てないで落ち着いて作業して下さい。
・このあたりでチョット休憩する事をお勧めします。
ユニットレンズ全体の実態
・分解検査前の所見段階ではこの様な曇りがありました。
・この課題を解決する為には今までの様な手順が必要です。
・鏡胴内部の4枚の内のどのレンズに問題があるのかを検査します。
・該当レンズが見つかったら洗浄して下さい。
クリーニング終了後は組立て作業です
・クリーニングが終わったら気を抜かずに再組立工程に入ります。
・この時、少し時間がかかりますのでレンズに空気中の埃が付着します。
・必ず組立る直前にその埃をブロアーで飛ばして下さい。
・お勧めのタイプは、独立起立型のブロアーです。
・少し割高になりますが、コロコロ転がるタイプのものは作業に集中できません。
・入手先:ヨドバシカメラ ヨドバシカメラ
・価格目安:2,500円前後(サイズによります)
お疲れ様でした
・付属品を確認して下さい。
・折角メンテしたレンズです。
・前後キャップを装着して大切に保管して下さい。
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初心者でも出来る!カメラレンズ修理の教科書Vol.002 Pentax-F 1.7× AF Adapter 篇
自分のカメラは自分でメンテ!・・・対象レンズ : Pentax-F 1.7× AF Adapterレンズの修理、カメラレンズのカビ、オーバーホール、分解、清掃等にお悩みの方はぜひお読みください!
本書に使用するレンズは、全て当協会に実際にメンテナンス依頼があった実際の個体を
使わせて頂き解説を加えております。従いまして、その内容は写真を見ながらじっくり再現すれば、あなたが所有する同じ機種にも当てはまる様に構成されております。自分のレンズと同機種なのかをまずはよく確認して頂き、焦らずにじっくり取り組んで下さい。古き良きレンズをメンテできる職人さんも私同様、だんだん高齢化になっています。各メーカーさんも昔のレンズ程受け入れていないのが実情です。また、この種の修理を教える機関そのものが、日本には殆ど存在しないのも事実です。このままですと、いずれ世界中にある昔のレンズを
修理できる人がいなくなってしまいます。一般社団法人 日本レンズ協会は、この様な現状と今後の予測をもとに、レンズ修理事業と並行し、教育分野に取り組んでいます。その一環として、本書『カメラレンズ修理の教科書』をシリーズ化してまいります。本書では、プロが実際に作業している風景を、写真と動画にて解説を加えている構成をとっています。従いまして、じっくりこの教科書に向き合って頂ければ、プロが行うのと同じ様な結果が得られる構成になっております。ぜひ本書をお読みになり、プロフェッショナルのレンズメンテナンスをマスターしてください。
著者プロフィール
田斉健輔(タサイ・ケンスケ)
一般社団法人日本レンズ協会 代表理事。光学研究所 所長。
1960年、生まれ。祖父がライカカメラのレンズ職人だった為、幼少の頃からカメラレンズに慣れ親しむ。東京学芸大学を中退後、自衛隊に入隊。その後、大手外食企業の東日本統括部長に就任。
2004年、カメラレンズのメンテナンス・修理の事業を興す。2011年、一般社団法人日本レンズ協会設立。今後、カメラレンズ修理の専門学校設立を構想している。ミッションは、日本の古き良きカメラレンズを、良い状態で後世に残していくこと。