二つの駆動系部位
今回の修理ご依頼内容は、絞り羽が動かないという課題の解決でした。35mm用フイルムカメラ時代のオールドレンズの構造は、大体共通しているのですが、駆動系部位として、フォーカス調整機構と、絞り羽ユニット機構の二つがレンズ鏡胴内部に組み込まれています。勿論、この駆動系部位の他に、複数枚の硝子玉が光学系部位として組み込まれています。
ピントと露出
あまりにも基本的な知識になりますが、そもそも写真を撮る際に必要な知識と技術は、二つしかありません。ピントと明るさです。ピントが合っていない写真は、何の写真なのかが解りません。同じく、明かる過ぎる写真も、暗すぎる写真も、その写真に何が映っているのか不明です。この明るさの事を、撮影の世界では露出と呼びますが、この二つを写真家は自分の頭で考えて、レンズの二つの駆動系部位をコントロールしつつ、シャッターを押します。
シャッタースピード
適正な露出の写真撮影には、シャッタースピードという駆動系部位の設定が必要になりますが、35mmフイルムカメラの場合は、この設定は、絞り羽指標との組み合わせで、カメラ側で設定していました。中判カメラ用レンズには、このシャッタースピードの調整ダイヤルが、レンズ側に組み込まれている機種もあります。
この様な、レンズの役割を踏まえた上で、今回の修理の内容をレポート致します。
レンズ検査ご依頼までの流れ(経緯)
今回のご依頼はメールにて受け付けましたので、その内容を簡潔にまとめました。
久しぶりに撮影しようとレンズを取り出しましたが、絞り羽が動きません。解放状態のまま絞る事ができなくなてしまいました。どうしてでしょうか?以前は問題なく動いていました。これは修理できますか?もしできる様でしたら是非お願い致します。その過程で、埃等付着物ありましたら、一緒に修理して下さい。又、何故この様な状態になってしまったのかも教えてもらえるとありがたいです。
機種名 | Yashica ML 55mm F1.2 |
シリアルNO | A5001822 |
付属品 | フロントキャップ、カメラ本体 |
課題(所有者さん見解) | 久しぶりに撮影しようとレンズを取り出しましたが 絞り羽が動きません。 |
修理報告
絞り羽ユニット機構関連部位に、フォーカス調整機構螺旋状部グリスが落ちて相当に付着しています。それが、絞り羽フイルム本体が、解放状態のまま固着してしまっている原因でした。油分を含む汚れが付着していた全ての部位のクリーニング処置にてその駆動は復元しています。同梱して頂いたカメラ本体に問題はありませんでした。今回の処置工程と併せまして、光学系付着物も除去してありますので、現状カビ等の付着物はありません。ご安心下さい。
何故、絞り羽が固着してしまうのか?
これはあくまでも個人的な見解になりますが、そもそも鏡胴内部に絞り羽ユニット機構と、フォーカス調整機構の二つの駆動系部位が隣接して組み込んである構造自体に少し無理があります。絞り羽ユニット機構は乾いている状態がベストなのに対して、フォーカス調整機構関連螺旋状部は油=グリスで金属同士の摩耗を防いでいる構造になっています。
個体差はありますが、このグリスが絞り羽ユニット機構に流れ落ちて付着してしまう個体が散見されます。どうして、この様な症状がレンズ鏡胴内部で発生してしまうのかは、原因の特定は難しいのですが、使用されているグリス自体の成分が原因なのか?保管されていたレンズの向きに問題があるのか?様々な原因が考えられます。
同じ機種でもこの様な症状がない個体も現存するので、そういう意味では不思議な現象の一つになります。一度こういう症状が発生すると、こちらで処置を施し、駆動が復元しても、その後同じ様な症状になってしまう事もあります。なので、もしも症状が再発した場合は、所有者さんがご自宅でできる簡易的な処置方法を、動画等で収録してご協力して頂いております。
参考写真
納品に関しまして
※お願い・・・銀行お振込み頂きましたら、その旨メールにてお知らせ頂けますと幸いでございます。確認後速やかに納品させて頂きます。
発送方法 | クロネコ着払い便 |
送り状NO | 別途メールにて報告 |
配送状況 | お荷物追跡システム |
ご決済に関しまして
整備費 | 20,000円(税込) |
決済方法 | 銀行振り込み |
お願い | ご決済後メールにてお知らせ下さい |
お振込み先銀行
・みずほ銀行
・五香支店
・口座名義 一般社団法人 日本レンズ協会
・普通口座
・口座番号 1715154
ご縁ございましたら、今後もお付き合い・ご指導宜しくお願い申し上げます。
(一社)日本レンズ協会 代表理事 田斉 健輔